第三章 十月に雨が降る 三

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 職場から自宅まで、徒歩で三十分以上はかかる。普通ならば、車で移動しているだろう。  しかしその日は、良美の亭主が車を使用するので使えず、良美は森まで送って貰い、帰りは誰かに乗せて貰うと言っていた。  しかし、良美は一人で帰る。 「そして、良美は二度と家には帰らなかった」 「計画的な失踪ですか?」  玲央名の業務日誌によると、良美は子供を溺愛していた。 「……いや、死んでいるだろうな」  良美は、長男がバレーボールに夢中になると、朝練にはお手製の弁当を持たせた。そして、毎回必ず試合を観戦し、熱烈に応援していた。そんな良美が、その後も長男に連絡新しなかった筈がない。  そして、長女は服飾の仕事を目指していて、それも良美は惜しみなく応援していた。 「現在、良美の長女はコスプレの店を持っていて、作り方などを教えている。その長女は、母親は駆け落ちするような人ではなかったと周囲に言っていた」  店にはゲームやアニメの世界を再現した、超絶リアルな部屋があり、それは周期的に開放される。その精巧な再現は、世界中にファンがいて、部屋を丸ごと富豪達が買ってゆくほどだった。
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