第一章 十月に雨が降る

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 これは、忘れていたのではなく、意図したものだ。何故かといえば、とても道原が嬉しそうにしているからだ。 「夏目さん、塩が欲しいですか?」 「……欲しい」  俺が道原を睨んでいると、フラフラと近づいてきて、梅干しをくれた奴がいた。 「…………三毛?どうかしたのか?」  俺に近付いてきたのは三毛 千尋で、級友でもあり、俺の同居人でもある。 「……夏目さん」  俺は、この三毛もお気に入りで、つい構ってしまうのだ。そのせいで、三毛からは、すっかり嫌われている。だから、こうやって三毛から近づいて来るということは、とても珍しい。 「夏目さん……」  しかし、梅干しはどこから出てきたのだろう。しっかりと個包装されたもので、高級感が漂う。しかも、食べてみると、とても美味しい。ジューシーな上に酸っぱく、程よい酸味が、俺の好みだ。 「夏目さん……あの、いなくなってしまって……探したら、あの、その……アレ?」 「誰が、いついなくなった?」  三毛は棚の上に座っている俺の背に、顔を埋めた。そして泣きながら顔を拭き、時々、鼻水も拭く。 「あれ。あの……その……」 「道原、翻訳」
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