第三章 十月に雨が降る 三

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 ここは過去なので、俺達は実際には存在していない。だから、車のドアを開けて乗り込んでも、運転席にいた女性は気付く事がなかった。 「会話も聞こえませんか?」 「多分、俺達の会話は聞こえない」  後部座席は全て倒されていて、この車は運搬用に使用されているようだった。そして、重なって置かれた空きトレーには、社名がマジックで書かれていた。 「付近には不審な車が無かったとあります」 「この車が、不審ではなかったせいだ。ここに、キッチン喜多村とある。弁当屋だろうな……」  運転している女性を見ると、良美とは同世代のような感じがする。それに、今も面影が残るが、若い時は可愛い女性だったのだろう。  そして、キッチン喜多村を調べてみると、この場所から数キロ離れた場所にある、定食屋兼商店で、弁当の製造販売していた。そして現在は、この付近に建築された地元物産店に弁当を卸し、かつ店員もしていた。 「あ、良美さんが来た」 「待ち合わせか?」  良美は笑顔でやって来て、車の助手席に乗り込んだ。 「どうしたの?弥生ちゃん」 「あの、相談があって……」
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