第三章 十月に雨が降る 三

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 車は走り出し、喜多村の店に向かっているようだった。  そして相談の内容というのは、この付近に出す予定の店に、自分を雇って貰えないかというものだった。 「わかった、兄に言っておくね」 「……ありがとう」  喜多村の店は、定食と弁当で、どうにか生計をたてているが赤字に近く、出戻りの弥生には居場所が無いらしい。  終始ニコニコしている良美に対し、弥生の表情は暗かった。 「嫌な事を頼んで、ゴメン」 「いいよ。いつも、美味しいお弁当を持ってきて貰っているから」  しかし、それは嘘で、キッチン喜多村の弁当の評判は悪かった。それは冷凍品の安価な揚げ物を多用し、あとは簡単な煮物しか詰め込まないせいだ。だから、良美は食べていなかった。  それに良美は、この弁当を食べていたら、早死にしそうだと言っている時もあった。  しかし、この付近に弁当屋はキッチン喜多村しかなく、来客の際には仕方なく依頼していた。それでも、大口の客の場合は、隣町の弁当屋を頼んだ。 「……嘘を付かなくていいよ。ウチの弁当、不味いもの」 「そんな事ないよ」
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