第四章 十月に雨が降る 四

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第四章 十月に雨が降る 四

 良美は川の水位を知りたいので、橋の横で車を止めて欲しいと言った。  そして、小降りになった雨の中、ビニール傘をさして外に出た。  川は小さなものだったが濁流で、かなり水嵩が増していた。このまま水位が増していったら、数時間後には溢れ出してしまうかもしれない。そして、溢れ出た先には、廣川造園の畑があった。  良美は橋から身を乗り出してから、横の細道に入って、更に水位を確認した。そして車に帰ろうとした時、突然、小雨が豪雨に変わった。 「あら!」  水位を心配していた良美が、後ろを振り返った時、足が滑って態勢を崩した。そして、弥生が慌てたように近づいたが、助けたのではなく良美を突き飛ばしたように見えた。 「きゃああああ」  良美は悲鳴を上げて転び、更に転がると川に落ちた。そして濁流は、瞬間で良美の姿を飲み込み、悲鳴も消えた。  弥生は豪雨の中で、一人で笑っていたが、ゆっくりと周囲を確認し、雨が全てを隠していたと確信した。  そして雨が納まるのを待ち、車を走らせた。 「……助けないのか……」 「救助も呼んでいません」  だから良美は失踪した事になったのだ。  そして、俺と道原は、そのまま弥生と同行したので、弥生がその後も警察には届けず、普通に家族と過ごしていた事を知った。
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