第四章 十月に雨が降る 四

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「良美さんを追わなくて良かったのですか?」 「これは過去を見ているだけで、変える事はできない。だから、弥生の方が重要だ」  弥生があまりに自然で、むしろ、そこに怖さを感じる。人を一人濁流に落としても、ここまで普通に過ごせるものなのだろうか。 「あれは、誰だ?」 「弥生には子供がいたようです」  子供といっても、既に大学生といったあたりだ。そして、弥生と同じように、キッチン喜多村には居場所がないように見える。  そして、その日の夜、良美の行方を知らないかと、誠士から電話があった。弥生は知らないと答え、ここ数日、会っていないと言った。だが川の水位が上がっていた事や、途中で降った豪雨の様子などは、詳細に伝えていた。  すると、誠士は良美が川に落ちた可能性も考え、川を見に行くと言った。弥生はならば自分も探すと言い出し、車の鍵を取った。だが、やはり探すと言い出した、他の家族には危険なので来ない方がいいと諭した。  そして弥生は、再び川に戻ると、良美の行方を探した。 「この勢いでは、相当、下流に流されていますよ」 「そうかもな……」
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