第五章 十月に雨が降る 五

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第五章 十月に雨が降る 五

 橋を過ぎて、山の方角に進んでゆくと、巨大な屋敷が見えてきた。これは平屋なのかと思ったら、微妙なデザインで二階が存在している和風建築だ。それも、かなり年代を重ねていて、百年以上は経過していそうだ。庭の作りからすると、昔の豪農といった風情で、中庭がとても広い。そして大きな蔵もある。 「大きな家だ」 「廣川造園です」  昔の殿様も城に住んでいたのではなく、館に住んでいた。この廣川造園は、そんな殿様のいる館を連想させる。  そして、その屋敷の横に、洋館のようなものがあった。これが、ミスマッチのようで、妙に大正風になっている。そして、その並びに、和洋折衷の郵便局のようなものがあった。 「古風な感じで良い通り」 「どういう感想ですか!」  どこにでもある景色を見に来る客はいない。だから、こういう昔から存在するような、素朴な景色がいいのだ。街中にこんな景色は存在していない。  そして、屋敷から少し離れた場所に、庭園見本園と書かれた看板があった。そこに駐車場があったので停めると、付近を散策してみた。 「見本園か……かなり広いな……」
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