第五章 十月に雨が降る 五

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 質問してもいいが、持ち上げるのは止めて欲しい。だが、そっと、幻の名酒もパンフレットもくれたので、中々出来る奴かもしれない。 「辰見の能力も知っている。それで、何か引っかかって留まってしまったのだろう?」 「そうです!ソコ、重要ですよね」  ソコというのは、きっと主旨だろう。  辰見は大人の雰囲気もある、静かな奴かっと思っていたが、喋ると年相応にうるさい。 「俺は、人を見間違えません」  辰見は現在成人している人が、赤ん坊の時の写真を見せても、間違う事がない。 「俺の事は分からなかっただろう」 「夏目さんは、別格です。俺も、このショックを胸に、例外が存在する事を学びました!」  能力に慢心せず、学び続ける事は基本だ。その基本がなっていない者が多い中、辰見はいい発見をした。 「それで、です……」  そして、説明しようとして、辰見がぐったりと疲れた。 「どうしても、分からない……」  辰見は項垂れてから立ち上がり、奥の部屋からカステラを持ってきた。これは、乳製品を使っていない、上級品だ。  俺がそっと手を伸ばすと、辰見が嬉しそうに俺を見ていた。
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