第五章 十月に雨が降る 五

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「古民家と青空」 「はいはい」  庭園見本園に、古民家を移動させてきたのは正解だ。  失われてゆく世界は、そこで生きた事が無くても、アイデンティティーとして存在している。つまりは、懐かしい。 「ここには、木々もある。真っ白な雲も良い!」 「はいはい」  言葉で伝達できるものには限界がある。人と人との会話は、知識の伝承だ。それは、言葉以上の事柄を伝えている。  だから、感動は人と人の中にある。記録だけでは、この知識を継承できないのだ。  懐かしいと思うのは、俺の親、そして更にその親の記録なのだろう。 「次の水溜まり!」 「落ちないで下さい!洗うのが大変なので、入らない!ああ……水飛沫が……泥が……」  水溜まりに見える景色が、弾けて飛んだ。こんなに面白いものなのに、どうして大人になったら忘れてしまえるのだろう。 「それで、夏目さん。三人が白骨化しているのは、どの変なのですか?」 「道原、地図」  俺の目は衛星と繋がっているようなもので、現在地点どころか、周辺の俯瞰図も分かる。だが、それを基準に説明すると、誰も分からないので地図で説明しておこう。 「いいか」
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