第五章 十月に雨が降る 五

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 亜子は二十代後半か、三十代前半に見える。それに、子供が二人いるとは、とても思えない清純さだ。 「亜子さん」 「あら、辰見君。その方達は級友なのかな?」  どうして、このバラバラの面子で、級友なのだと言ったのだろう。  すると、亜子は息子の友人達と雰囲気が似ていると笑っていた。  そして、呼び名が名前ではなかったので少し驚いた。 「はい。今日、宿泊させたいのですが、いいですか?」 「あ、猿君もいるのね。これでは、普通のホテルは無理よね。いいよ。夕食は何にしよう……」  この夕食というのは、誰用なのであろうか。  そして、亜子は俺をじっと見つめていた。 「猿君」 「夏目です」 「夏目さん!!」  亜子は、俺が喋っても驚かずに、そのままじっと見つめていた。 「食べられないものはある?」 「乳製品」  亜子は頷くと、思いだしたように玄関に入って行き、薔薇の刺繍がある大きなタオルを持ってきた。  そして、そのタオルで俺を拭こうとしたので、道原が止めた。 「タオルが汚れます。夏目さんには、そこの雑巾でいいです」 「道原……」
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