第五章 十月に雨が降る 五

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 確かに、綺麗なタオルは必要無いが、指さした雑巾はボロボロで真っ黒だった。これは、あんまりに酷い対応だろう。 「雑巾では可哀想。なら、この雨用のタオルで……」 「雨用のタオル?」  この付近は、スコールのように雨が降る事が多いらしい。そこで、濡れてしまった客用にタオルが用意されていた。 「ほら、ちゃんと拭いて……あら、可愛い長靴……それに目が丸くてパッチリね……ほら綺麗になった」 「ありがとう」  亜子は、見た目が表情の無いアンドロイドのようだが、中身は優しい女性らしい。それに、近くで見ても美しい。 「亜子さんは、伝説にある姫様みたいだ……」  この庭園の通路に、山城の伝承があったが、そこで天女と姫様という物語があった。天女はこの地に豊作の雨を降らせたが、姫様は何も出来ない。それを苦にして、姫様は池に飛び込んでしまうのだが、憐れんだ神様が姫様を金色の鯉にする。だが、天女は鯉に話し掛けては、泣き続ける。  そして、金色の鯉は沢山の子孫を産み、この土地の名産になる。  神様ももう少し考えて行動すれば良いのだが、結果として珍しい鯉は高値で売れたので、村は栄えた。
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