第五章 十月に雨が降る 五

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「あら、ありがとう」  亜子の声は優しく、表情は乏しいが、笑っているようだった。 「金色の鯉は、もうこの土地にはいないのよ。かなり前の台風の豪雨で土砂崩れがおきて、池が埋まってしまったの」 「鯉こく!食べられない?!」  金色の鯉は、食用ではないと亜子に説明されてしまった。 「……雨?」  そして、晴れたまま雨が降りだしたので、軒下に入った。でも、今度は小雨のまま、すぐに止みそうだ。 「雨……」  亜子の頬に雨が落ち、それは泣いているように見えた。しかも、とんでもなく綺麗で、俺もつい見つめ続けてしまった。  亜子が美しいだけならば、それはどこにでもいそうな美人で終わる。しかし、亜子の内から染み出るような寂しさと、孤独さが、どうにも人を惹きつけて止まないのだ。  この人の笑顔を見たい。つい、そう願ってしまう。 「うむ、玲央名さんも優しい」 「玲央名さん…………美女に弱い」  だから、玲央名はここに留まってしまったのだろう。  つまり亜子は、人助け精神を持つ者を、惹きつけてしまう性質なのだ。
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