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「あら、ありがとう」
亜子の声は優しく、表情は乏しいが、笑っているようだった。
「金色の鯉は、もうこの土地にはいないのよ。かなり前の台風の豪雨で土砂崩れがおきて、池が埋まってしまったの」
「鯉こく!食べられない?!」
金色の鯉は、食用ではないと亜子に説明されてしまった。
「……雨?」
そして、晴れたまま雨が降りだしたので、軒下に入った。でも、今度は小雨のまま、すぐに止みそうだ。
「雨……」
亜子の頬に雨が落ち、それは泣いているように見えた。しかも、とんでもなく綺麗で、俺もつい見つめ続けてしまった。
亜子が美しいだけならば、それはどこにでもいそうな美人で終わる。しかし、亜子の内から染み出るような寂しさと、孤独さが、どうにも人を惹きつけて止まないのだ。
この人の笑顔を見たい。つい、そう願ってしまう。
「うむ、玲央名さんも優しい」
「玲央名さん…………美女に弱い」
だから、玲央名はここに留まってしまったのだろう。
つまり亜子は、人助け精神を持つ者を、惹きつけてしまう性質なのだ。
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