第五章 十月に雨が降る 五

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「……天気雨は、天女の涙……天女は、姫様がとっても好きだった。笑顔を見たいと思ったから頑張った……」 「でも、鯉は笑わない」  だから、天女は晴れている日に、池の中の鯉を思って涙を落とす。それが、この土地の天気雨だ。 「親友というのは、そういうものなのだ……と……母が言っていた」 「お母さんにも親友がいたのですね……」  しかし亜子は、猿が喋っていても、全く気にしていない。俺の事を、着ぐるみか何かかと思っているのかもしれない。 「夏目ちゃんにも親友がいるのかな?」 「親友……」  つい、本村が激怒している顔が浮かんでしまった。  しかし、亜子の母親は、亜子が産まれたあたりで亡くなっているのではないのか。 「お母さんと、沢山話されたのですか?」 「いいえ…………母は早くに亡くなりました」  亜子に表情は無かったが、少し笑っているような感じがした。そして、それはとても優しい口調で、しかし、しっかりと確信している話し方だった。 「母は、私宛の手紙を沢山残していた。五歳から十五歳までの十年間、毎日……」 「どれだけの量だ??????」
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