第五章 十月に雨が降る 五

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 最初は一言のひらがなで、次第に長くなってゆくらしい。そして、それだけの量を、妊娠中に書いていた。 「母は、天女のような女性だったのです……慈しみがあって美しく、いつも凜としていた。そしてお腹にいる我が子に話し掛けた。そして、生まれて来るのは姫様だと言った」  だから、亜子に宛てられた手紙は、娘に残したものではなく、親友に宛てた手紙のようだったという。 「天女と姫様……」  これは、哀しい物語だ。互いの願いを叶えても、そこに幸せが無いのだ。 「どっちも、笑っていて欲しいな……」  基本、俺は女性に、いつも笑っていて欲しいと願う。だが実際には、俺の周囲には怒っている女性の方が多い。 「そうね、猿君」 「夏目です」  そして、この土地には、他の伝承もあるという。
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