第六章 夜に咲く花も在る

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第六章 夜に咲く花も在る

 亜子は、俺達を自宅のリビングに案内すると、まずは手作りのクッキーを出した。しかも、俺が乳製品に弱いと分かると、豆乳で作ったマフィンを作ってくれた。  これが、かなり美味だったので、レシピを聞くと、亜子は一緒に作ろうと言い出し、俺をキッチンに入れた。 「それで、亜子さん、俺に話があるのですか?」 「…………」  相談するのならば、人間に限定して欲しかった。しかし、亜子は本当にマフィンを作りながら、少し悩んでから俺を見た。  だが、中々話を切り出さなかったので、大量のマフィンが出来た。 「これは、お土産に差し上げるね。後で食べて……」 「ダンボールに山盛りくらいありますね……」  亜子は、玲央名が裏社会の人間だという事を知っていた。それは、二十年ほど前に、自身で玲央名を訪ねているので、その頃から知っていたのだろう。 「玲央名さんに、奥さんがいる事も知っていて……それで、結婚したの……私は、夫は要らないけれど、子供が欲しかった。最低な女なの……それなのに、玲央名さんは優しくて……」  優しいというのも罪だろう。 「私の一族は、犬だったとされていて……それが伝承の一つ」  それは戦国の時代、忠臣に恵まれなかったこの土地の領主が、犬を家臣にした事から始まる。犬は懸命に仕え、数々の武勲を上げた。そして、この地が安定し、戦が終結になった時、領主は犬を裏切った。
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