第六章 夜に咲く花も在る

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「戦が終わると、犬しか家来のいない殿と揶揄され、怒った殿は犬を、深くまで掘った穴に落とし、上から岩を投げ入れ、更に土を被せて埋めてしまった……」  だが、その行いのせいで、嘲笑の他に侮蔑が加わった。 「忠臣を裏切る殿。殿は次第に正気を失い、自分の十三人の娘の首を切り、途絶えろと叫んで自害した」  しかし、その十三人の娘は、父親が自害すると起き上がり、犬となって各地に散ったとされている。  そしてその一匹が亜子の先祖らしい。 「伝承には他の説もあって、戦が終わったので犬を自由にする時に、まるで娘を嫁に出すようだと言ったので、娘という説になったというものもあります」  実際は何の記録も残っていないが、犬というフレーズは残った。 「でも……真実は違う。殿は本当に、犬を大切にしていて、死んでほしくない。死なせたくないと願った」  その願い方が半端なく、狂気に満ちてしまう程だったので、狂ったという説も出来た。 「この付近には、犬が付く地名が多くあります。それは、殿が犬に与えた土地といわれています」  忠臣に与えた土地なのだろう。
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