三十三 無意識に煽ってくるタイプの男

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三十三 無意識に煽ってくるタイプの男

 カノと清の会瀬は、週に一度だけ。理由は単純で、清が都心には住んでいないこと。普段は会社員をしているのが理由だ。それでも、毎週ホストクラブに通う清は、かなり稀有でお得意様と言えるだろう。毎週来るので単価は安いが、確実に席を埋めてくれる客でもある。店にとってもホストにとっても、悪いことにはならない。 (まあ、もっと来て欲しいのが本音だけど、それはな)  借金してまで来て欲しくないし、生活を破綻させて欲しいとも思っていない。清には清の生活があり、それがあるからこそ、楽しみに来ることができる。  いつも通り、清が来るのを待っていたカノは、通りの向こうにいる細身の体躯に目を細める。清は目立つ。身長は平均よりだが、身体がかなり細い。芸能人なども萬葉町には来るので見たことがあるが、それよりも細い。かといって、病的な細さではない。顔色もよく、健康的だ。  そんな清なので、当然、通りに立つと悪目立ちする。ブサイクなどと揶揄されがちだが、言うほど酷くはない。スタイルの良さと、オシャレに気を遣う流行りのファッション。本人はモテないというが、恐らくは下心を隠さないせいだろう。見てくれだけなら目を引く。問題の下心も、カノに出会ってからは鳴りを潜めているので、目下のところ清は女の子にモテていた。――本人は気づいていないようだが。 「あの人、すっごい細くない?」 「スタイル良いー、羨ましい」  と、女の子がヒソヒソと話している。清は視線には気づかず、スマートフォンを眺めている。 (ったく……。清のクセにモテてんじゃねーよ)  清からすれば理不尽なことを考えつつ、近づいていく。 「清」 「カノくんっ」  パッと表情を明るくして、清が顔を上げる。清は表情がくるくる変わる。人懐こさは犬のようだし、明るい性格は魅力的だ。モテないなんて、冗談だろう? とカノは思っているが、口にしたことはない。お世辞なら言うが、本当のことを言う必要はない。自信をもってしまって、店に来なくなるのは困る。  清との出会いは、偶然だった。カノはたまたま所用で外出していたタイミングで、店の裏手から聴こえてきた喧騒に、近づいてみたのだ。  路地裏にあるゴミ捨て場。その傍に、清が居た。しかも、様子がおかしい。男たちに囲まれ、清は素っ裸だった。男たちの顔は見たことがあった。近くにあるソープに出入りしていた男たちだ。ソープには違法な店舗がある。今日日、新しくソープランドを造ろうにも、認可はまず降りない。清が入った店も、そんな違法な店だった。  美人局にあったらしい清を放り出すのは可哀想だと、何故か同情してしまった。気晴らしになればと誘ったホストクラブに、清は律儀に通い続けている。  最初は、毛色の違う客として。面白いヤツとして。それから、憎めなくなって、情が湧いて。  手放せなくなった。 「逢いたかった」 「っ……、カノくん、口が上手すぎ」 「こんなんで褒めるのは清くらいだって」  顔を赤くする清を見ていると、唇に噛みつきたくなる。 (清はコレ、リップサービスだと思ってるんだろうな)  ホストの常套句だと思っているのだろう。確かに、そう言うことも言うが、違いくらい解って欲しいものだ。  腰に手を回し、引き寄せる。身体を密着させるのも、当たり前のようになった。清は恥ずかしそうにするが、逃げたりはしない。 (あー、ホテル直行したい。店サボりてぇ)  と、つい下心がムクムクと沸き上がる。だが、清が『ホストのカノ』を好んでいる以上、行かないわけにはいかない。夢を見せて、気持ち良くなってもらわなければならないだろう。  ご褒美はアフターでたっぷり貰えば良い。最近は馴れてきたのか、快感を訴えるようになったし、多少、積極的になってきた。 (この前はクチでしてくれたし、全部入ったし)  清を最初に抱いてから、カノの欲望は肥大する一方だった。もっと欲しい。もっと深くまで貫きたい。もっとメチャクチャにしたい。いっそ、壊してしまいたい。  危険なほどの欲求と、脳みそが溶けるほどの快感。清とのセックスには、それがある。 「カノくん、今日はどこ行きたい?」 「んー。肉食いたい」 (ホテルか家)  本音を押し隠し、無難に肉と答えておく。見下ろしたシャツの首筋から覗く項に、キスをしたい。 「んじゃ、肉行こ。肉。牛肉ー」  鼻歌混じりにそういう清に、口許が緩む。 「なに笑ってんの?」 「ん。変な歌と思って」 「ええー、良いじゃん、肉の歌」  不満そうな清の顔を見ながら、カノは笑う。 (ホント、マジで、今すぐ路地裏に連れ込んで一発ヤりてえ)  衝動を誤魔化すように笑いながら、カノは今日はどうやって鳴かせてやろうかと、頭のなかで清を犯した。
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