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 高く聳える外壁が四方を囲い、少し陰りのあるレンガ造りの家々が軒を連ねる。  人工物が溢れるダフェラの都の片隅で、ノナは途方に暮れていた。  白い肌、そして、特徴的な先の尖った耳を持つ魔族の少女。  年の頃は、人間でいえば16、7といったくらい。毛先に少し癖のある、黒髪のミディアムストレート。その肢体は程よく鍛えられているが、少し肉付きの薄い雰囲気がある。  その身に纏うのは、黒を基調としたバトルドレス。足のホルスターには魔杖が収められ、見る者が見れば、彼女に戦いの心得があることが理解できるだろう。 「ねぇノナ。これはちょっと、良くないんじゃない?」  ノナの耳元で、ダーク・フェアリーのフェマが告げる。  銀の髪のポニーテールに褐色の肌。アメジストを思わせる挑発的な紫瞳に、黒曜石のように輝く一対の羽。纏う雰囲気は人間でいえば15、6歳くらいの少女を思わせるが、その身の丈は成人男性の掌程度しかない。 「そうですね。ちょっと、良くないですね……」  戸惑いの色を滲ませながら、ノナは小さな声で呟く。  立ち尽くす二人の前には、かなり異質な光景が広がっている。  石畳の上に転がる男が3人。そして、胸ぐらを掴まれて吊るされている男がひとり。  男を吊るしているのは、ひとりの人間の少女だった。  簡素な黒シャツに白の長ズボン、重厚感のある白の外套を纏い、その背には使い込まれた感のある大きめの木刀。  そして、背中を半分ほど覆う橙黄色の髪は至るところが無造作に跳ね、その鋭さのある紅蓮の瞳は、鋭利な刃物を思わせる。 「いいかテメェら。今度私のシマでバカやりやがったら、ひん剥いて放り出すからな」  少女は男にそう告げると、容赦なくその顔を殴りつけた。  男はその場に倒れ、動かなくなる。  人気のない裏路地に、意識のない男4人が転がっている。  これだけなら、治安の悪い路地裏で時折見かける半日常的な光景になるのだが、問題は男たちの服装だった。  4人が4人とも、官憲を示す制服を着用している。
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