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アレン
「全く、今度はなんの思いつきだ。あの馬鹿王子め!」
苛立ちながら吐き捨てたアレンに、隣を歩くエリィとルパンヌも同調する。
「本当だよ。僕ん家の畑はまだ、今日の分の収穫が半分も終わってないのに」
「うちもそうさ。アンタら貴族様と違って、俺たち下民は今日を生きるのに必死だっつうのによ」
三人は今、王子の召集で町の広場へと向かっている。
彼らが営むズッキーニ畑はちょうど今収穫期を迎えており、忙しい時期に仕事の手を止められた怒りから王子に対する不満が止まらない。
そうでなくても、ほとんどの国民は元より王子の馬鹿っぷりには辟易としていた。
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だだっ広いばかりで噴水の一つもない広場にはすでに数百、下手したら千人ほどの町民がひしめいていた。
町の成人人口ほぼ全員だ。呼び出しは自分たちだけだと思っていたアレンはその光景に目を丸くした。
「あー、テステス。諸君、突然呼び出して申し訳ない。本日は大事な用があり、こうして集まってもらった次第だ」
王子の声がした。見ると、群衆の真ん中から嫌味な造りのクラウンがぴょこんと飛び出している。
「先日、我が城に泥棒が入り国宝・虹の石が盗まれた。実に嘆かわしいことである。がしかし! 奴は重大なミスを犯した。逃走の折、履いていた靴を片方落としていったのだ。これだ」
王子の隣から誰か(従者だと思われる)の手が伸び、靴を掲げた。
小柄なエリィは「どれ? 見えない……」と、左隣でぴょんぴょん跳ねている。
「ふっふっ。どうだ? 見覚えがある者は居るか? この中に犯人が居れば、今、この靴を見てドキッとしたはずだ」
群衆がにわかに騒つく。
アレンは右隣のルパンヌと顔を見合わせて、お互い首を傾げた。
「なぁ、あの靴って……」
「あぁ。アレだよな……」
王子の自信に満ちた声が宣言する。
「今から諸君ら全員にこの靴を履いてもらう。そして、ぴったりとサイズが合った者を犯人として連行する! 泥棒探しの始まりだ!」
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