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アレン
町の拘置所に集められて半日ほど経っただろうか。明らかにこんな大人数の収監は想定されていない牢の中は、狭いし暑いし臭い。
あと、明らかに足のサイズが二六センチより大きいであろうルパンヌまで捕まっていることも疑問だ。行き当たりばったりで思慮が浅い。本当に、あの王子には腹が立って仕方ない。
「聞こえるかな、諸君」
なんて思っていたところ、ちょうど檻の外から馬鹿王子の声が聞こえてきた。捕らえられた他の町民たちも今回ばかりはよっぽど腹に据えかねたのか、「早くここから出せ!」「ふざけるな!」と容赦のない罵声を浴びせる。
が、王子はどこ吹く風でそれに応える。
「あぁ。今すぐにでも出してあげよう。諸君ら全員、処刑をすることに決めた」
処刑だと!? 町人たちは怒りから一転、恐怖でパニックに陥る。
しかしパニックになったのは彼らだけではない。
「王子!? それは駄目だと言ったではないですか!」
王子の隣の小太りの従者(セバスチャンといったか)が青褪めながら叫んだ。
「ほう。なぜ?」
「なぜって! この町の容疑者を処刑したら、他の町でも同じようにするおつもりでしょう!?」
「当然だ。どの町に犯人が潜んでいるか分からないからな、怪しき者は全て抹殺せねば」
「そんなことしたら、人口が三割近くも減ってしまいます! 国が傾きますよ!」
「では、ここからさらに容疑者を絞れるような証拠を持ってこい! さもなくば全員処刑だ!」
王子の言葉に蜘蛛の子を散らしたように駆け出す従者たち。馬鹿に振り回される様は気の毒でならないが、自分たちの命がかかっている以上頑張ってもらうほかないとアレンは思う。
しばらくののち、従者の一人が息を切らして戻ってきた。
「王子! 犯人に繋がる証拠がここに!」
「なんだ? 見せてみよ」
「長くも短くもない普通の黒髪が抜け落ちていました!」
「そんなもので絞れるか! もっと別のものを持ってこい!」
「王子! こっちにも証拠が!」
「なんだ!」
「老若男女誰にでも似合いそうな、シンプルな青無地のハンカチです!」
「だからそんなもので絞れるかと言うのだ! 阿呆め!」
「王子!」
「なんだ!? 今度は期待していいんだな!? 頼むぞ!?」
「折り畳み傘(大人気の最新モデルで、ほとんどの国民がカバンの中に一本常備している。ユニセックス)です!」
「いい加減にしろ! やっぱり全員処刑だぁ!」
目の前で行われるギャグのようなやり取りにアレンはハァと溜息を吐いた。
どうやら馬鹿は王子だけではなかったらしい。たとえこの場は処刑を逃れたとしても、国自体が潰れて路頭に迷うのも時間の問題だなと思った。
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