エリィ

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エリィ

 広場から帰ったエリィは一人、黙々と彼のズッキーニ畑の隅っこを掘り起こしていた。  隣畑のアレンとルパンヌは今頃どうしているだろう。無事だろうか。あの王子のことだから、全員処刑する!なんて馬鹿げたことを言い出しているかもしれない。  まぁ、さすがに誰かが止めてくれると祈ろう。  それにしても。  ここ最近国内では宝石を狙った泥棒事件が多発していた。であれば、国宝・虹の石が狙われるのも時間の問題だと普通に考えれば分かる。  それに、虹の石は元々隣国の王子から友好の証として贈られたものと聞く。そんな大事なものをむざむざ盗まれたとなれば、王子の信用(そもそも無いに等しいが)は大きく失墜したことだろう。この件で王子の王家内での立場は危うくなり、継承問題ぐらいには発展するはずだ。  しかし、じゃあそれで国が良くなるのかと言えば、エリィには分からないし、別にどうでもいい。彼はすでにこの国を出て行く決意を固めていた。  エリィはただ黙々と土を掘る。  さっき。王子が嬉々として靴を見せびらかしている時なんかは、正直笑いそうになった。群衆に隠れてその時の王子の顔は見えなかったけど、もし見えていたら堪えきれず吹き出してしまったかもしれない。背が低くて助かった。  靴が落ちているのを見つけた時、彼はきっとしめたと思ったに違いない。  舞踏会。深夜0時。靴。これだけ揃えば、誰だってシンデレラを想起する。この靴があれば犯人を見つけ出せると考えるはずだ。  エリィはただ土を掘る。黙々と、ひたすらに。  あぁ、我ながら上手くできた罠だ。  なぜならシンデレラはフィクション。自分の足にぴったりの靴がちょっと走ったぐらいで脱げるなんて、現実にはあり得ない。  もし脱げたならそれは。 「おっ」  土を掘り始めて数十分。鍬がカンッと何か硬いものにぶつかった。あの日、真っ暗な中適当に埋めて帰ったから、発見するのにずいぶん手間取ってしまった。  まだ国を出るための終馬車の時間に間に合うだろうか。  エリィが土の中から掘り出したのは「タガヤス社 農足シリーズ 二六センチ」。の、左足だ。  そして靴の中から親指大の石ころを取り出す。土を丁寧に払ってやると、石ころは沈みかけの西陽を浴びて虹色の光を放った。  エリィはククッと短い笑い声を漏らした後、石を彼の宝石コレクションである箱の中に大事に仕舞い込みつつ、独りごちた。 「もし脱げたならそれは、靴がブカブカだった、ってことじゃないかな」
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