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クレアの決心
ここ、グラス王国の王都から、遥か北に有る辺境の小さな村
カルダは、悲しみに沈んでいた。
50年に渡り、村人たちの病気や怪我を治してくれていた
医師、エドガーが、老衰で亡くなったのだ。
その中でも、エドガーの助手になり、見習い医師として、働いていた
クレアと、その弟ベイルは、特に深い悲しみに浸っていた。
クレアが10歳、ベイルが5歳の時、母が死に、身寄りのない二人を
エドガーが引き取って、8年間も育ててくれた。
その恩も、まだ返していないのに、、クレアは、ベイルと抱き合って泣いた。
悲しみの葬儀も済み、村長はクレアに言った。
「王都に行って、エドガー先生が亡くなった事を、報告して
次の先生に、来てもらえる様に、頼んで来てくれないか」
こんな重大な仕事が出来るのは、頭脳明晰なクレアしか居ない
村長と、村人全員は、そう思っていた。
「分かりました、でも、こんな辺境に来て呉れる、お医者さんが居るとは
思えません、期待しないで待っていて下さい」
クレアは、そう言うと一頭立ての馬車に乗り
「ベイル、薬を飲むのを忘れないでね」と、病弱な弟に声をかけ
「はいっ」と、馬に鞭を入れ走らせる。
朝早く、村を出たのに、王都に着いたのは昼過ぎだった。
そのまま役所に行き、エドガーの死を報告し
次の医師が、来てくれるかと聞くと
「カルダだろ?あんな辺鄙な所に、行きたいと言う者は居ないよ」
と、思っていた通りの言葉が、返って来た。
それでも、もし行っても良いと言う医師が居たら、是非と、お願いして
クレアは、役所を後にし、ベイルの土産を買うと、また馬車を飛ばす。
ひと時も休まずに、馬車を走らせたのに、村に着く頃は、もう陽が暮れていた
「?、どうしたのかしら?」陽が暮れたと言うのに
村の家々には、灯りが付いていない。
暗がりの中、自分の家を開け「ベイル、寝てるの?」と、声を掛けたが
何の返事も無かった。
ランプに灯りを点ける、その光の中、ベイルは、ベットに寝ていた。
「灯りも付けないで、寝ちゃったの?はい、お土産だよ」
と、傍に行ったクレアは「な、何なの?ベイル、ベイルッ」
と、ベイルの体を揺すったが、ベイルは、頭も体もグニャグニャで冷たく
脈も無く、息もしていない、まるで、死人の様だった。
クレアは、何が起こったのかと、村長の家に行ったが、そこも真っ暗で
ランプを点けて見ると、村長とその妻が、ベイルと同じ状態で
椅子に座っていた。
「ま、まさか、、」クレアは、村中の家を見て回った。
村人は、全員、グニャグニャの冷たい体になっていて
ベイルと同じ様に、脈も無く、息もしていなかった。
しんと静まり返った村の中に「何よこれ、一体、何が起こったのよ」
クレアの悲しい声だけが、響いた。
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