壱 春の夜、大井や

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つややかな白絹は、自ら光を放っているようだった。白無垢に着飾らせられた僕はおどおどと、実父と継母の前へ歩み出た。 ふたりの反応は鈍い。否、腫物を扱うような態度であった。きっと僕のせいだ。継母にとって、僕は長い間蔵に閉じ込めていた、前妻の長男だから。そして、嫁ぎ先が有名な薬種問屋「南天健寿堂」だから。 ――それだけじゃないか。 手元に舞いおちた桜の花びらに視線を落とす。だが、様々な考えを巡らせたところで、遠巻きな態度の真意など僕には何ひとつ分からない。 「川口のおばさんを覚えてるか?」 父が腰を曲げながら近づいてくる。扇子を持つ手を強張らせながら、首を横に振った。僕のわずかな動きに、父は瞳を大きく揺らした。 「春の彼岸で逝かれたそうだ」 二つの意味で言葉を失う。 今、言わなくてはならないことなの? 曲がりなりにも、わが子が嫁入りするときに? 邪魔者がいなくなってこれ幸いだとしても、最後くらいは波風立てずに挨拶をするものじゃないの? 喉から出かかった言葉は、すんでのところで止まった。どうせうまく話せやしない。諦めみたいなものだ。
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