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つややかな白絹は、自ら光を放っているようだった。白無垢に着飾らせられた僕はおどおどと、実父と継母の前へ歩み出た。
ふたりの反応は鈍い。否、腫物を扱うような態度であった。きっと僕のせいだ。継母にとって、僕は長い間蔵に閉じ込めていた、前妻の長男だから。そして、嫁ぎ先が有名な薬種問屋「南天健寿堂」だから。
――それだけじゃないか。
手元に舞いおちた桜の花びらに視線を落とす。だが、様々な考えを巡らせたところで、遠巻きな態度の真意など僕には何ひとつ分からない。
「川口のおばさんを覚えてるか?」
父が腰を曲げながら近づいてくる。扇子を持つ手を強張らせながら、首を横に振った。僕のわずかな動きに、父は瞳を大きく揺らした。
「春の彼岸で逝かれたそうだ」
二つの意味で言葉を失う。
今、言わなくてはならないことなの? 曲がりなりにも、わが子が嫁入りするときに?
邪魔者がいなくなってこれ幸いだとしても、最後くらいは波風立てずに挨拶をするものじゃないの?
喉から出かかった言葉は、すんでのところで止まった。どうせうまく話せやしない。諦めみたいなものだ。
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