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町はずれの小さなアパートには、二人の兄弟が住んでいた。
チャイムの音が二回。そして鍵を回す音がし、扉が開かれる。
「ただいまー」
兄の声に、僕は振り返った。
「おかえり。思ったより早かったな」
「小劇場だから、すぐばらすんだろう。ご用がお済の方は、って流されたから、そそくさと」
「じゃ、役者と話したりは出来なかったんだ」
久しぶりの休暇に、兄のモウフは、長年追いかけていた劇団の芝居を観てきたところだった。
「どうだった? 創作のいい刺激になったんじゃないか?」
「刺激って?」
「モウフ先生の次回作のインスピレーションになったかってことだよ!」
「よせよ、おこがましい」
モウフはサラリーマンだ。仕事のない時には、机に向かって黙々と小説を書いていた。幼い頃からの趣味だ。
僕は、モウフの小説が大好きだった。僕がイラストレーターを目指して通信で勉強しているのも、いつかモウフの作品の装丁を任せてもらいたいからだ。
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