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茫然としている僕を置き去りに、モウフは捲し立てるように言った。
「今の現実は、妥協して選んだ現実だ。諦めた選択肢が沢山ある。その選択肢を勇敢に選んで、思い通りの夢を掴みとった、完璧な自分の世界線もきっとある!」
「何言って……」
「もしも、目の前にそいつが現れたら、俺は……俺の存在価値は……」
モウフはその場に蹲って、しくしく泣き始めた。
そこで、漸く思い出した。
「ドッペルゲンガーのことか……?」
モウフは答えない。声を押し殺してしゃくりあげ、身体が小刻みに震えている。
僕は、兄の背中に手をやった。
「なんでこの現実が間違いだと思ってるんだよ。今の生活は、僕たちが努力してきた結果じゃないか。僕たちが、立ち向かってきた結果じゃないか……」
涙が零れそうになって、ぐっと口を噤んだ。自分自身も落ち着かせるために、ゆっくりゆっくり、モウフの背中をさすった。部屋にこだまする嗚咽は段々と小さくなって、やがて穏やかな寝息へと変わっていった。
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