チャイムの音が、

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 モウフは、きょとんと間抜けな顔をした。 「それが、生まれてから人生を共にしてきた、兄への言葉かあ?」 「お前はモウフじゃない!」 「モウフだよ、俺は、紛うことなき」 「モウフはそんな気持ち悪い倒置は使わない!」  目の前の何者かは、高らかな笑い声を上げた。 「そうかそうか! だから名を馳せなかったのかもな、小説家として」  その一言は、あまりに冷たく、僕の背筋を凍らせた。  モウフの言葉が思い起こされる。  ――もう一人の俺が、目の前に現れるのが怖い。  僕は叫んだ。 「帰れ! 僕たちは、今の生活で満足なんだよ!」 「必要ないだろ。逃げて、諦めて、立ち向かうことを恐れて選んだ人生なんて」 「モウフは逃げてない! 今だって、二人の夢のために!」 「今あ?」  僕を蔑むように、だらしなく語尾を伸ばして、彼は言った。 「俺は、両親に真っ向から反抗して、十八で上京したんだ。バイトしながら劇団に入った。巨匠のお膝元さ! お陰で俺は、今じゃ知らない人はいない大物俳優! 脚本の依頼もひっきりなしだ!」  まるで舞台に立つ俳優のように、大股に歩き回りながら彼は演説した。
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