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「それで、芝居はどうだったんだ?」
淹れた紅茶を差し出して、感想を急かす。
しかし、モウフは目を伏せて、「うーん」と唸った。少し黙って「他人のことを言えた口じゃないけどな」と前置きしてから続けた。
「ちょっと自分語り的で、がっかりしたというか」
「そうだったのか?」
「冒頭で、若い劇団員が稽古をしているシーンがあってさ、それがちょっと長めなんだよな。しかも稽古ってのが、その劇団の初演の作品で」
「ああ……」
「その後、演技指導のシーンもあって。そこがどうも、押しつけがましいというか」
「というと?」
「脚本を書いた人が、演劇についてどう考えてるかが、そのまま台詞になっていて」
「なるほどね」
「一見、自分たちの芸術活動を俯瞰しているように見せてるんだけど、結局は主観なんだよな。そもそも、自分の作品を客観視するなんて不可能だ。演出のあちこちに自分の人生観を織り交ぜて、満足しているだけだ」
言い終えて、モウフは深呼吸をした。紅茶に砂糖を淹れ、ティースプーンを静かに回す。
長い溜息の中に、「俺もその一人」と呟くのが聞こえた。
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