チャイムの音が、

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 モウフの創作活動は、趣味の範疇でしかない。本人がそう言っている。公募に出したり出さなかったり。思いついた時に、思いついただけ。  もっと積極的になってほしかった。今回の芝居は、きっとモウフが自分の創作活動に向き合ういいきっかけになると期待していたのに、がっかりしたのはこっちだ。 「……ドッペルゲンガーがいたら」  その言葉は、ぽろりと、僕の口から零れ落ちた。 「え?」 「もしも、ドッペルゲンガーがいたら、客観的な話が書けるんじゃないか?」 「なんだそれ」  モウフがくすりと笑ったのを見て、僕も思わず苦笑した。 「結局は自分自身なんだから、主観なのは一緒だろ」 「はは、そうか」 「もう一人の自分か……怖いな、そんなのが現れたら」 「そりゃあ、うっかり出会ったら死んじゃうらしいからな。芥川龍之介だって、会ったことがあるって!」 「嘘に決まってるだろ、そんなの」 「そうだ、次の話はドッペルゲンガーの話にしよう! いい考えだろ、モウフ!」 「じゃあ、ジャンパー。もしもお前が出会ってしまったらどうする?」 「名前を付ける!」 「なんて?」 「僕がジャンパーだから、エリマキとか!」  そんな冗談を続けているうちに、漸く芝居の感想が聞けた。やっぱり、モウフは芝居が好きなようだった。いつものくたびれた様子は一切なく、目を輝かせて、子供のようにはしゃぎながら話してくれた。
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