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10分程経過してやっと身動き出来る様になった野口は軽くストレッチを始めていた。
「ありがとう。後遺症でちょっと痛い……」
野口の言葉が終わらない内に、佐々木は自分のリュックを置いて、テンション高く崖の方に駆け寄って行く。
「ほら、凄い景色。が!」
「が?」
佐々木は右手で裏太ももを押さえながら、止まりきれず崖下に落ちて行った。
野口は息を呑み、体を硬直させた。
短い間、誰もいなくなった崖を凝視していたが、野口は直ぐに我に返って駆け出した。
崖に駆け寄り覗き込む野口。
崖下2m程の場所に生えた木に馬乗りの形で佐々木がいた。
「いっちゃん!いっちゃん!」
半泣きで野口を呼ぶ佐々木。
「助け呼ぶから!」
震える手でスマホを取り出す野口。
「ひゃ、ひゃ119番か?」
「うちのリュックにロープある!木折れそう!ミシミシ言うてる!」
野口は泣き声で叫ぶ佐々木の言葉に、スマホを放り出し、佐々木のリュックに駆け寄ると、引っ張り出したロープの片方を体にグルグル巻にしながら戻って来る。
「クッソ!やり方合ってるか解らん!」
もう片方のロープの先を輪っか状に結び、荷重がかかると閉まる様にして、佐々木の元へ垂らした。
「体に通して!引っ張るけどなるべく登ってくれ!」
指示に従って、ロープの輪っかがしっかり佐々木の体にかかったのを確認して野口はロープを引っ張り後ろに体重をかけた。
「引っ張るぞ!」
野口の叫び声と同時に何かが大きな音を立てて折れる音がした。
体と利き腕に巻きつけたロープが野口を締め上げる。
佐々木の重さに引きずられる野口は、尻もちを付いた、足を踏ん張り、背負ったリュックと体重で止めようとするが、体は草の上を滑っていく。
「佐々木!登れ!」
叫ぶ野口の利き足の裏が、地面から僅かに顔を出した石にかかり体が止まる。
「佐々木!登れ!」
野口の2度目の呼びかけを合図に、ロープの締め付けが緩んだ。
野口は立ち上がり1歩2歩とロープを引く。
佐々木が崖をよじ登り、完全によじ登った所を確認して野口はその場に座り込んだ。
もし地面の石に足が引っかから無ければ、確実に崖下に引きずり込まれていた事を意識し始めた野口の足は、震えが止まらない状態になっていた。
足を押さえて、震えを止めようとする手も異常に震えている。
「いっちゃん、いい景色だよ」
崖の縁に座り込み景色を眺めながら、佐々木がそう呟いた。
突然の佐々木の発言に一瞬、呆けた様な表情の後、野口は苦笑いになる。
「切り替え早過ぎるわ」
「……呆れるやろ」
野口の言葉に、間をおいて佐々木が寂しそうに、そう答えた。
「いや、どっちかって言うと救われる方かな」
野口はすっかり震えの止まった足で立ち上がり、お尻の汚れを叩く。
「人生には是非とも欲しい」
「……じゃあ、早速登ろう」
佐々木の元気な声が返って来る。
「せやな、日が暮れるのも嫌やし」
野口の答えに、佐々木は暫くキョトンとした表情を見せた。
「え?どうした?」
「何でもない」
佐々木はそれだけ言い放つと、やたら嬉しそうに自分の荷物を整理して準備を始めた。
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