部活を決めよう

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部活を決めよう

「山ちゃん、部活は決めた?」  入学して1週間が過ぎた。金曜日の午後、6時限目がお休みになり、代わりに1年生は全員、体育館に集められた。今日はこのあと「部活動紹介」が行われるのだ。  初雁商業高校には、スポーツ特待生制度がある。特待生は中学校までの実績で入試を免除されるので、毎年、県内外から合格枠の10倍を超える志望者が殺到するという。そういう未来のスター候補たちが集まっている部活動は、当然全国大会常連レベルだ。ちょっと関心があって始めようかな……という素人では、到底レギュラーなんか取れるはずもない。 「うん。僕、野球部に入るんだ」 「えっ! もしかして、山ちゃんって凄い選手……」  僕の身長は、163.5cm。高1男子の平均より約5cm低い。そんな僕を頭から爪先まで見て、河ちゃんは目を丸くした。 「違う、違う。僕、マネージャーをしたいんだ」 「マネージャー?」 「ずっと憧れてる先輩が、初雁商(ここ)にいるんだ。その先輩を近くで支えられたらって……ヘンかなぁ」 「いや……。その先輩って、同中(おなちゅう)?」 「ううん。小学校は同じだったけど……僕のことは覚えていないんじゃないかなぁ。あ、始まったよ」  体育館の舞台上に、ラケットを持った人たちが一列に並ぶ。 「僕たち、硬式テニス部は――」  素振りの実演を眺めながら、心は“あの夏”を思い出す。僕が初めてヒーローに出会った、小6の県大会を。  僕には、志弥(ゆきや)という名の兄がいる。3歳上で、今年からK大の社会福祉学部に通っている。  兄ちゃんは、真面目に“生”が付くくらいの努力家だ。父さんの影響で野球にのめり込み、小2で地元のリトルチームに入ると、毎日練習に明け暮れた。身体の成長と共にメキメキ上達し、小5で向かうところ敵なしのエースになった。一方の僕はといえば、小さい頃から身体が弱く、すぐに熱を出しては寝込むような子どもだった。運動全般が得意じゃなくて、兄ちゃんが活躍する姿は憧れであり、自慢でもあった。  兄ちゃんが小6、僕が小3の冬休み中に、父さんのK県への転勤が決まった。両親は話し合いの末、一家で引っ越すことに決めた。兄ちゃんは、リトルチームの仲間たちと離れることになったけれど、入学先の四方(しほう)中学校の野球部が県内でもと知ると、期待に目を輝かせていた。 「今年は、全国大会に行けるかもしれないぞ、奏風」  あれは僕が小6になったばかりの4月のことだ。 「1学年下に、凄いピッチャーが入ったんだ。アイツとなら行ける気がする」 「兄ちゃん、ホント?」 「うん。頑張るからな、楽しみにしてろよ!」  そう言ってキラキラした笑顔を僕に向けていたのに……およそ3ヶ月ののち、思いもよらぬ形でその夢は打ち砕かれてしまった。兄ちゃんが、学校帰りに事故に遭い、両足に大怪我を負ってしまったのだ。地区大会の決勝戦、3日前のことだった。
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