不同意でも離散

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不同意でも離散

 地区大会決勝戦を観戦した夜から熱を出し、僕は1週間ほど自宅で寝込んだ。ようやく元気を取り戻したとき、両親は決断を告げられた。 「奏風、父さんと母さんは、離婚することになった」 「……え」  兄ちゃんは、まだ入院中で、家の中には両親と僕しかいない。いつも通りの食卓に、ご飯と八宝菜と餃子と玉子スープが並ぶ。 「父さんな、来月からロサンゼルスの支社で働くんだ」 「ロサンゼルスって、アメリカの?」 「ああ。志弥が元気になったら、遊びに来るといい」 「えっ」  突然聞かされた両親の「離婚」も、父さんが移り住む「ロサンゼルス」も、耳にインプットされるけれど、そこから先の処理が追いつかない。椅子に座った姿勢のまま、透明なカプセルに閉じ込められたみたいに動けなくて。なのに、既に決定事項だからなのか、父さんも母さんも当たり前のように八宝菜を取り分けたり、餃子のタレに辣油を足したりしている。 「この家は、今月いっぱいで引っ越すわ。志弥はリハビリ施設の整ったところに転院するからね。あんたも2学期から転校するから、そのつもりでいなさい」 「なにそれ……もう全部決まっているの」 「そうね」 「兄ちゃんは……知ってるの」 「ええ」 「なんて……なんて言ってた?!」 「『分かった』って。それと、『今の学校の人にはなにも知らせないで欲しい』って」  なにそれ。  なにそれ。  なにそれっ……!! 「僕、分かんないっ。酷いよ!」 「奏風」  食欲なんか、どこかへ消えた。お腹も気持ちも、はち切れそうにパンパンに膨らんで、爆発しそう。箸に触れもせずに立ち上がると、そのまま自分の部屋に駆け戻った。なにもかもが腹立たしくて、悔しくて、悲しくて、ボロボロ泣いた。泣いたってどうしようもないことは分かっていたけれど、それでも言葉に変換できない感情の渦に巻き込まれて、泣くことしか出来なかった。  引っ越しまでの残り半月の間、荷造りも夏休みの宿題も放り出して、友達と遊んだ。それは僕のささやかな抵抗でもあったのだけれど、所詮子どもの浅知恵で……僕と兄ちゃんの持ち物は、両親の手で抜かりなくまとめられ、31日の昼前には引っ越し業者のトラックで運ばれていった。
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