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「話、したいんだけど」
「とりあえず今は戻ろうよ。あとにして」
「……わかった」
納得していないような、渋々というような。
あの時の彼と同じような顔。
いま話したってよかったけど心の準備ができてないし「今の彼女と幸せだ」とか言われることをこの一瞬で想像してしまっていまにも泣きそうになってしまってる。
「ねぇ、大丈夫?」
「なにがー?」
「さっきからずっと休まず飲んでるじゃん」
「だいじょーぶ」
ピッチャーにレモンサワーが入っていたのが運の尽き。
そのピッチャーの中身は多分自分によって空になったんだろう。
「お姉さん、これオカワリー」と通りかかった店員さんにピッチャーを指さす。
酔っ払ってしまえばいい。そしたら彼の聞きたくない話も聞かずに済む。どんなにお酒を飲んでも頭の中にあるのは彼のことで、いつまでも忘れさせてくれなくて嫌になっちゃう。
とにかくすべて忘れてしまいたくて、飲み続けたあたしはいつの間にか意識を手放してしまったようだ。
***
「ねぇ、行かないで……ずっとそばいてよ」
彼の手を握りしめると「ずっといるよ」ってキスが降ってくる。
あぁ、これは夢なんだな。夢の中ならこんな風に甘えられるんだ。なんていい夢だ……なんて思いながら、もう一度目を閉じてふたたび深い眠りにつく。
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