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合コン開始
それから数日後、五十嵐さんから指定された日にちを迎えた。当日までにいろいろと悩んでいた結果、結局私は合コンに参加することを決めた。
別に長年連絡も取ってなく、しかも自分をいじめていた相手につきあう義理はない。
けれど、すっぽかしてしまったら、あの五十嵐さんが逆上して何をしでかすかわからない。
つまり私は、大人になってもいじめっ子が怖くて逆らえないでいる。
我ながら小心者だ。
まぁそれだけではなく、同じく巻き込まれてしまった一ノ瀬さんを心配して、という理由もあるのだが……。
_____
そんなこんなで合コン会場の飲み屋に予定通りのメンバーが集まり、ついに合コンが始まった。
「それじゃあ、まずは女性陣から自己紹介しよっか!私は、五十嵐 環奈!趣味は~、料理とガーデニングです♪」
五十嵐さんが先手を切って、昔と変わらない猫かぶりな笑顔で自己紹介をする。
趣味も、男ウケ狙いのための家庭的な物チョイスというのが見え見えだった。
あたたかい拍手の後、自己紹介の番は隣の一ノ瀬さんに移る。
「一ノ瀬 千秋です。広告代理店でグラフィックデザイナーの仕事をしております」
先程の五十嵐さんとは対照的に、一ノ瀬さんの自己紹介は淡々と、だがどこか丁寧さを感じられた。
中学時代の真面目さは今でもご健全、それどころか、清楚さも加えられてまさにできるイイ女、という雰囲気が漂っている。
そんな感想を抱いているうちに、一ノ瀬さんへの拍手の音が止み、私の番が回ってきた。
「……夢咲 心花です。……その、初めての合コンで緊張していますが、よろしくお願いします」
とりあえず当たり障りのないことを言って、私は自己紹介を終わらせた。五十嵐さんのにやけ顔が、チラチラと視界の端にうつる。
私への拍手が止むと、自己紹介は男性陣へと移った。
「……月城 奏多です。趣味は……音楽でしょうか。最近はピアノを弾いたりしています」
知的でクールな雰囲気を持つ男性、月城さんに向ける五十嵐さんの目には、既にハートマークが浮かんでいる。
どうやら、早速合コンでのターゲットを決めたようだ。
「天野 悠です。えーっと、最近飼った柴犬が可愛いってことしか取り柄のない、平凡なサラリーマンです」
素朴な感じの青年、天野さんは、そう言ってはにかんだような笑みを浮かべた。
……その時、天野さんのすぐ隣の席に座っていた男の人が突然立ち上がった。
「えー!?柴犬飼ってたなんて、俺聞いてないんだけど!?」
「ちょっ、蓮斗静かに…!!」
「なぁなぁ、毛、何色!?名前何!?」
宥めようとする天野さんに構わず、蓮斗と呼ばれた男の人は、興奮が収まらない様子で天野さんに詰め寄っている。
「こら、いい加減にしないか蓮斗!」
「むぎゅっ……」
痺れを切らした月城さんに首根っこを掴まれた彼は、ようやく大人しくなった。
しゅんとして座る姿がまるで、イタズラがバレた子供のようだ。
けれど切り替えが早いタイプなのか、すぐにぱっと表情を明るくさせて、私たちの方を見た。
「あのあの!オレ、八神 蓮斗!えーと……コーラ一気飲みした後、ゲップしないで早口言葉3回いえます!!」
小さな子供のように笑う八神さんに、私は思わず呆気に取られた。おそらく、他の女性2人も同じだろう。
五十嵐さんに至っては、興味が無い、と言うように露骨に目を逸らしている。
「ご、ごめんね~……こいつなんというか、純粋なやつでさ。いい意味でも悪い意味でも……」
苦笑いを浮かべながら、天野さんはそうフォローする。
そのおかげか、困惑の空気はやや和んだような気がした。
……でも、天野さんの言うように、たしかに八神さんからは、思わずクスッと笑ってしまうような……そんな純粋さが感じられた。
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