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いじめっ子からのLINE
『久しぶり!これって夢咲さんのLINEだよね?中学生の時のクラスメイト、五十嵐 環奈でーす( ‘-^ )-☆覚えてるー?』
……という、突然私のスマホに送られてきたメッセージを見て、私はため息を着いた。
五十嵐 環奈……。覚えてる、というか、忘れるはずがない。なぜなら彼女は、小学生の時、私をいじめていた相手なのだから。
私、 夢咲 心花は、幼い頃からある少年マンガを見るのが大好きだった。
その少年マンガのタイトルは、『ペガサスファンタジー』。主人公の『スカイ』が、なんでも願いを叶えてくれる幻の宝石・『ペガサスジュエル』を手に入れるため、仲間と共にあらゆる敵や困難を乗り越えるという、王道なファンタジー冒険ものである。
連載終了後にアニメ化もされており、今でもファンの年代問わず、根強い人気を誇っている。
私が特にお気に入りだったのは、『氷雪の魔弓・ザード』。
氷の力が込められた弓矢の使い手で、主人公が敵対する魔王の下に着く、四天王の一人。所謂悪役というやつだ。
けれど、ザードには単なる悪役という一言では片付けられない魅力がある。
高身長で切れ長の瞳を持つイケメンという、ルックスの良さでザードを評価をするファンも、もちろんいる。
だが、私が何よりも惹かれたのは、ザードが最期に見せた芯の強さだ。
ザードは主人公のスカイとの戦いに敗れ、彼の強さを認めたその直後、別の四天王に不意打ちされそうになったスカイを庇った故に致命傷を受けてしまう。そして……。
『君のような戦士こそ、未来を切り開く資格がある。出会いが違えば、きっと良い戦友になれただろうな……』
と呟き、息を引き取る……。
悲しく切なく……けれども、彼らしく自分の信念を貫き通した最期だと、涙を流したファンは数しれず。
そんなザードに、私は幼心にも憧れを抱いていた。
けれど、『女の子が少年漫画を好きなのはおかしい、それも悪役だなんて』と、家族からは非難されていた。
家族だけではない。クラスの中で少年漫画が好きな女子は私だけだったために、他の女子たちはみんな私をバカにしていた。
その筆頭になっていたのが、当時同じクラスだった五十嵐 環奈だったのだ。
『女の子のくせに、男の子が読む漫画の悪い人が好きだなんて野蛮ねー!』
『悪い人が好きなら、心花ちゃんも悪い人なんでしょ!近寄らないでよね!』
そんな罵声を毎日のように浴びせられ、いつしかノートや教科書に落書きをされたり、物を隠されたりと、嫌がらせを受けるようにまでなっていた。
今思えば、彼女たちはただ私が気に入らなかったからちょっかいを出したに過ぎず、『私が男物の悪役好きだから』というのは、その口実にしたかっただけなのだろう。
もちろん家族や先生には相談したものの、家族からは『女の子なのに男の子の物が好きならバカにされて当然』、先生からは『我慢していれば向こうもそのうち大人しくなる』と、まともにとりあってもらえなかった。
中学校も彼女と同じだったのだが、幸いなことに、軽口を叩かれる程度で済んでいた。
中学校卒業後は、それぞれ違う進路に進んだがために、それ以降五十嵐さんと会うことはなかった。
そして、23歳になった今、LINEで久々に彼女の名前を見たのだが……今更なんの用だというのだろう?
正直、既に見る気は失せているのが……無視すると色々と面倒くさそうなので、私はそのままメッセージを読み進めることにした。
『いきなりごめんねー♡実は今度、合コンがあるんだけどさー、夢咲さんにも来てほしくてさ!m(_ _)m』
『あんた、昔から地味だったし、どうせ男の出会いなんてないでしょ?あ、中学二年の時に同じクラスだった一ノ瀬さんも誘ってるよ!』
『場所と時間は以下の通りです!しっかり確認するように!(*`・ω・´)』
「……」
決めつけ、見下し、他人の都合を考えない……。
なんというか、悪い意味で『変わってないな』と思わせる文章だった。
ようするに、合コンのメンバーの数合わせ……いや、わざわざ当時見下していた上、中学卒業後から全く付き合いがなかった私を誘ったところを見ると、引き立て役にしようという魂胆なのだろう。
メッセージにでてきた一ノ瀬さんも、おそらくそうだ。
彼女は良くも悪くも真面目で、五十嵐さんからは皮肉の意味を込めて『いいこちゃん』と呼ばれていたし……。
「……ま、彼氏がいないのは本当だけどさ……」
はぁー、と、私は腹の底から深いため息をついた。
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