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妹が亡くなって1年 そしてあの騒動から同棲を始めた秋乃(あきの) 陽太(ようた)と暮らして、その位が経過するだろう。 妹が死んだ家に戻るのが苦痛だった後に陽太は、部屋が余ってるからと俺を家に招いた。 ホスト時代に8000万のマンションを一括で買っていたらしく、築二年程度だからまだかなり綺麗である。 特に陽太は、綺麗好きでがさつな俺と違って清潔感があるから、細かな掃除も進んでしていた。 だからどの部屋… いや、正確には俺の部屋以外は1年前と変わらない姿を保っていたんだ。 「 はぁー……。今日もクソ暑かった…… 」 朝の6時半までには会社に着き、夕方の17時半に終わる。 9月に入ったのに、今だに8月並みに暑い日中に嫌気をしながら、玄関を開けて中へと入れば冷たい程の冷房に息をつく。 「 あ、すげぇ…生き返る。涼しい… 」 汗臭い制服を煽り、地肌に冷気を送ってから玄関の離しに適当に仕事の荷物を置き、厚底のブーツを脱ぐ為に玄関へと腰を下ろす。 アスファルトの熱で足裏が焼かれないようにか、それとも事故の際に足を骨折しない為かは分からないが、無駄に冬靴のような重いそれを脱いでは、鼻に付く汗臭い匂いに眉が寄る。 「 くっせ…… 」 ツンっとした汗の匂いに毎回気分が悪いが、確認ついでにブーツを掴み、中の匂いを嗅ぐ。 「 まだいける…。今週の休みに、靴を洗うか… 」 週1で洗わなくては、臭くてたまったもんじゃない。 ブーツを玄関の横に置いては立ち上がり、他の部屋に寄ることなく風呂場へと向かう。 真っ白な脱衣場で服を脱ぎ、カゴに入れてから風呂場に入れば、先に帰っていた陽太は声をかけていた。 「 着替えこれだけ?洗濯するね? 」 「 嗚呼…わりぃ…。ありがとな 」 「 うん。いいよ 」 いつも洗濯をして貰ってる気がするが、土日は俺がするのだから、気にしてないのだろう。 手の空いてる方がする…と言うやり方で、 家事は交互にやっていた。 「 あ"ーー……めっちゃスッキリした 」 ほぼ冷水で浴びた風呂を終え、汗を洗い流してさっぱりした俺はボクサーパンツに薄手のズボンを履き、黒無地のインナーを着てからリビングに行く。 「 今日も暑かったのにお疲れ。アイス買ってるけど、食う? 」 「 あ、食う 」 黒いL字のソファへと腰を掛け、濡れた髪をタオルで拭いていれば、陽太は冷凍庫からレーゲンナッツを取り出し、俺の好きな抹茶をスプーンとセットで差し出してきた為に受け取り、すぐに蓋を開けて食う。 「 うめー……。マジ生き返る…。仕事終わりのアイスって最高だな 」   「 ふっ、そっか。今日なんか変わった事とかあった? 」 いつもと同じ似たような会話の為に、余り気にせず一日の出来事を思い出しては、話をする。 「 あー……そういえば、昼間に立ってたら…俺のフェロモン?に当てられた男のオメガが近寄ってきてな。まじキモかった 」 「 ……オメガ、ね 」 「 彼奴等、男の汗でも寄ってくるなんてゾンビかよ。まっ…仕事中だからって蹴散らしたけど、二度と会いたくねぇな 」 この世界には、男と女以外に第二の性が存在する。 それは人口の数%しか存在しないが、俺と同じだが更に有能だと言われるアルファ性、 男でも孕むことが出来るオメガ性。 そして…陽太と同じベータ性は、この世界の人口の殆どを占めている。 「 氷翠(ひすい)はオメガが嫌いだもんな。寄ってこられたら困るか 」 「 いや、女のオメガは寧ろウェルカムなんだけど…。男が無理…生理的に受け付けない。同性であるってだけでもう…無理 」 過去の事があるから、同性に責め寄られても一切嬉しくないし、寧ろ反吐が出る程に気持ち悪くて仕方ない。 それをよく知ってる陽太は、比較的に俺との距離感は上手いと思う。 「 まぁそうだろう。でも…氷翠はアルファと言う以前に美形だから、立ってるだけでモテるよね? 」 「 ……そうか?帽子で顔なんて分からないと思うが…。そう言う陽太の方が顔が良いだろ、前に店に行った時、服を聞こうとしたら女の客に囲まれてたじゃないか…お陰で、着替えが買えずに終わったが…… 」 大手チェーン店の店員をしてる陽太は、元ホストだと言うこともあり接客が上手く、愛想もいい。 見た目の整った顔立ちを相まって、店内で人気であることを知っている。 だから、そんな事がつい最近… 寧ろ、先週辺りに見たような光景だと、アイスを口にしながら伝えれば、彼は苦笑いを浮かべテーブルに晩御飯のカレーを置く。   「 来ていたなら言ってくれたらいいのに…。嗚呼、今週の土曜日…休みだから一緒に服でも買いにいく? 」 「 休みなのか?自分じゃなんの服がいいか分かんねぇから…。いや、古着でいいんだが… 」 「 俺も、服屋の店員としてトレンドとか流行りとか知りたいから丁度いいよ 」 「 じゃ…頼むわ。いただきます 」 空のアイスのカップを横に置き、カレー容器引き寄せて片手に持ってはスプーンで掬って口へと運ぶ。 「 あ、うめっ…。牛カレーじゃん、最高かよ 」 「 おかわりあるから、好きに食べてな 」 「 嗚呼、食う 」 必ず土日が休みである俺とは違って、シフト制の陽太とは休みの日が合わない事が多いが、偶に合うと買い物に付き合ってくれたりする。 俺の買い物に付き合わせてばかりの気はするが、嫌な顔をしないのだからいいのだろう。 センスなんて皆無だから、助かるなって思いながらカレーを口へと運ぶ。 陽太はソファの上ではなく、カーペットに直接座って適当につけてるバラエティ番組を観ながら、食事をしていた。 立ってるだけなのにクソ腹が減ってた俺は、陽太がおかわりをしないことを知ってる為に、全部食ってから歯磨きへと行き、その後にリビングで警備の勉強する。 「 っー…待てよ。場合どこにコーンを設置するんだったけ…。確か、メモした気が… 」 警備会社に務めるのは簡単だったが、それ以降が大変だ。 毎日覚えることが多く、やる場所でやり方が異なるから、覚えてないとならない。 そんな知能はαのくせに皆無だから、全て殴り書きのメモをしてるのを開き、探した後に書く。 「 プロテイン置いておくね 」 「 嗚呼…サンキュー 」 いつの間にか風呂から上がり、俺の目の前にプロテインの入ったガラスコップを置いた陽太は、ポテチの袋を開けて食べ始め、片手にスマホを持って弄る。 特に居ても意味無いのに、こいつは良く俺の意味がなさそうな勉強が終わるまで、リビングに居座っているんだ。 意味が分からんが……。 「 なぁ、今日さ… 」 「 ん?うん… 」 「 俺はビルの駐車場入り口を担当してたわけだよ。んで…方向指示機出してる車が2台来たんだよ 」 「 うん?うん 」 手元にある消しゴムやシャーペンの芯入れなどを使って、経験したことを話す。 「 先輩が左右からの車を停めて、2台続けて出していいって無線連絡したんだが、その2台目が逆方向なわけだ。本来なら2台目を停めなきゃいけないんだが、先輩がいい!いい出せ出せ。って言ったから出したが…この場合って、学んだ事を優先するのか、その班のリーダーに従うのか…どっちだと思うか? 」 「 片側一方通行にしてる場合は…確かに続けて出したらだめと思うけど。先輩がいいって言うなら、いいのかな…。ほら、結局上司に従えって言うし 」 「 じゃ…いいのか…。……他のリーダーだと怒られる内容だから、いいって言われると悩むな。あー、くそめんどくせぇ 」 その場によって周りの言ってることは教科書と違うことが多い。 其れを学ばないように教科書と照らし合わせるのだが、高確率で駄目と言われてることをいいと言われてしてしまってるから、腹が立つ。 「 ふっ。氷翠は正義感強いからルールに反することが嫌いだもんなぁ。自分が班長になった時に、ちゃんとしたらいいんじゃないかな? 」 「 いや、俺程…ルールに反したやつねぇだろ。父親殺してるし…てか、班長になる気はねぇよ。夏はクソ暑いし…冷房掛かった工場勤務の方がまだマシだわ 」 「 んーでも…。頑張ってじゃん?俺は暑い中、分厚い服を着てすごいと思うよ 」 過去を話したことがある陽太は全部知ってるが、それでも俺を褒めてくれる様子に、ちょっと笑った顔をじっと見詰めれば、ポテチを口に運ぼうとした彼は傾げた。 「 え、なに…なんか歯に海苔でも付いてる? 」 「 ついてねぇけど…… 」 口元に指で拭く様子に僅かに目線を逸してから、メモを戻す。 「 なんか……様子に褒められると、変な気分だ 」 「 え、嫌だった?ごめん… 」 「 別に…嫌じゃねぇし… 」 嫌ではない…。 なんだ、よく分からない感情にどんな言葉が合うのかも分からなかった。 そう言えば誰かに、褒められたことなんて… 一度もねぇわ……。
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