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〜 陽太 視点 〜 バタン…と少し乱暴に閉まった玄関の扉の音を聞いた瞬間、肩に張っていた力が抜けて一気にテーブルへと突っ伏した。 「 氷翠……格好良すぎ……… 」 俺は、氷翠に密かな想いを寄せてる…。 それは叶わない恋心だし、好かれてることを察しられてもダメだ。 もし俺が好きだなんて知ったら、すごく嫌そうな顔をして" きめぇ… "と言って出て行くに違いない。 そんなの、幸せな生活が崩れるのは嫌だから… 出来るだけポーカーフェイスを貫くけど、本当は頬筋が緩んで仕方ない。 「 へへ……新しい写真を撮っちゃった。それも許可済みだから、待受にしてもいいよね 」 格好いい氷翠を、他の店員に見せる訳がない。 只でさえ、モテる要素しかないアルファなのに…、 それが更に美形で格好いいのなら、彼氏がいる女店員ですらメロメロだろう。 にやけながら制服姿で格好いい氷翠の写真を待受にして、一時眺めてから立ち上がる。 「 俺の為に弁当と朝御飯も作ってくれるなんて…最高だし、嬉し過ぎる…。昨日は不意打ちとは言えど、フェラも出来たし…幸せ過ぎかも… 」 野性的な性格してるし、余り隠し事をしないから、扉の鍵も閉めず自慰してる時はあるから… 昨日のように度々見掛ける。 けれど、やってもいい…なんて許可が下りる事は滅多にないから嬉しかった。 お陰で、フェラをした後…俺の理性は崩れて自室で自慰に明け暮れて、朝が早く起きれなかったけど…。 それでも、行ってらっしゃいが言えたのは嬉しい。 「 さて、朝の支度をしてからグラタンでも食べようかな 」 氷翠はちょっと、他人が自身に向ける感情に鈍いところがあるから… 俺か側にずっといる理由も分かってないだろうし、こうやって作ってもらった料理を本気で喜んでることも知らない。 それは彼の過去が、愛情を受け取るには無縁だったから仕方ないのだけど…。 「 いつか…好意というものを知ってくれたらいいな… 」 多少がさつだけど、ある程度は一人でこなしてしまう彼だから、俺はつい手間を掛けてしまう。 本当は俺が作る料理より断然美味いのだけど… 手料理を余り食ったことが無いと言ってたから、出来るだけ、夜ぐらいは作るようにしているんだ。 そのお陰で、氷翠が笑顔を浮かべて食べてくれるのが嬉しい…。 「 でも、俺をベータだと信じてから…。オメガだと気づかれないようにしなきゃ…。本当は… 」 昨日の精子だってナカに注いで欲しいけど、氷翠はそんな事はしない。 唯一してくれたのは、俺を妹さんを犯したホストだと間違えた時に散々ナカへと精を注がれた。 でも、あの時はホストをしてたから避妊効果もある強めの抑制剤を飲んでたから妊娠はすることはなかった。 それが後々残念だと思ってるけど…。 男嫌いの氷翠と一緒に居られるなら… 子供なんてデキなくて…良かったのかも知れない。 「 ごちそうさま…美味しかったよーってスタンプ送って…。よし、氷翠の部屋でも掃除してあげよう 」 彼は自分の部屋以外は掃除するけど、身の回りに関してはズボラだから、偶に掃除して上げなければ黒いアレが何処からともなく出て来てしまう。 そんなのは俺が嫌だから、手が開いた時はする。 食器洗い機のボタンを押して、洗い始めたのを確認してから彼の寝室に行く。 「 相変わらず、アルファのフェロモンプンプン…まぁ仕方ないけど… 」 香水なんてつけないから、もろにフェロモンの香りが残る部屋だ。 それも昨日は自慰してた後… 流石にこの中で作業をするのはきついから、窓を開けて換気をしてから、落ちてる服を拾っていく。 タオルやら靴下やら、其々を全て洗濯機に入れて回し始めて、シーツと枕カバーも取り除いて、大きめの洗濯機に入れる。 後はフロアクリーナーで拭いて、机の上はよく分からないから紙を一カ所に纏めて、消しゴムのカスをゴミ箱に捨てていく。 「 がさつなのに…字は上手いんだよね…。羨ましい… 」 習字の先生をしてた?ってぐらいに字は上手いから、ちょっと羨ましい。 俺は偶に、殴り書きのメモが読めないと言われるのに…。 「 よし。ある程度、片付いたか?後はシーツやらをつけ直して、乾燥が終えた服をタンスに片付けたら終わりだね 」 最初の物が落ちてた足の文場もない部屋は、スッキリとした部屋へと変わる。 一年経過したのに、荷物が服しか増えないことに…いつでも出ていける気満々って感じがして寂しいけど、仕方ない。 彼が男が嫌いな以上…そうなる。 これまで家出をされた経験はないけど…。 俺の好意に気付けば、それをされてるだろう。 そうなりたく無いから、隠せる事は隠す。 「 ……本当は、ちょっとは子供欲しいなとか…。キスしたいなーとか…朝のハグや一緒に寝たり…お風呂に入ったりもしたいけど…全部、キモいって言われるのが目に見える…。はぁー…俺の理性、頑張れ… 」 いっその事、誘い受けでもしてやろうかなって思った事もあるけど……。 嫌われる未来しかない…。   だから、31歳にもなって凄くエッチしたいのを我慢して、日々過ごすしか無いんだ。 洗濯が終わるまでちょっとだけ、彼の布団で横たわって仮眠をしようとすれば、抱き締められてる感じがして、嬉しくなる。 「 ……あぁ、すきだな… 」 実感すればするほど、愛おしさを感じるから シーツを取った掛布団を抱き締めて、眠りについた。 起きたくなかったけど、意地で起きて洗濯物を終わらせて、お弁当をしっかり持ってから仕事場である服屋へと向かう。 「 秋乃さん、おはようございます 」 「 おはようございます。今日も頑張りましょ 」 「 はい!! 」 俺はまだ新人だから下っ端だけど、それでも先輩である女店員から笑顔を向けられるのは悪い気はしない。 オメガの前に、 男であることは間違いのだから…。 「( でも、やっぱり…俺が、氷翠に対してキャーキャー言ってる方が気分いいな…。分かるけど、分かるけどもね…? )」 氷翠が女がいいと言う理由は納得出来るけど、 彼の氷のような態度と容姿とは裏腹に、 案外表情豊かな様子が好きで仕方ない。 昼に愛夫弁当だと一人で思って食べながら、  氷翠より早く仕事が終わるから、晩御飯の材料のちょい足しを兼ねて買い物をして帰る。 朝と昼は筋肉馬鹿の氷翠によってタンパク質多めの健康的だが…、 夜は空腹を満たす為にカロリーの爆弾を作る。 「 よし…。オムライスとハンバーグで決まりだ 」 エプロンを着けて、気合いを入れてから作り始めた。
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