鳥に追われる

初めて会う君

アオチ

「アオチさん、しっかりしてください」

　眼鏡の奥で涙を浮かべているオオミを見てはっとなった。

「ごめん。俺――」

「目が覚めましたか？　戻ってきてくれて良かったです。心臓を取られてしまったかと思いました……これからは僕が守るから、安心してください」

　眼鏡を外して袖口で涙を拭いてオオミが言った。表情と裏腹に、初めて聞く力強い口調にうろたえた。

「本当にごめん、俺、しっかりするから」

「心臓回収人と名乗っていた、あの男に何かされたんですか？　憑りつかれたようでしたが」

　言葉を発する度にもれる涙声に罪悪感が湧いてくる。後輩にこんなに心配をかけるなんて情けない。

「……あいつのことを知っていた気がするんだ。あいつの姿を船の外から見て、その後は意識すら曖昧な、夢の中を歩いてるような、変な感じだった。なあ、悪かったよ。お前がこんなに――」

　オオミが首を静かに横にふる。

「大丈夫です。気をつけてください、アオチさんはまだ――」

　その時外からドアを激しく叩く音とオゼの声がした。

「おい！　何してるんだ？　大丈夫なのか？」

　オオミの前を通り、冷たいドアノブに手を置いてゆっくりと開いた。

「アオチ……様子がおかしいから心配したぞ」

　ドアの前に立っていたオゼが、俺の顔を見て大きく溜息をついた。

「ごめん」

　さっきから何度も繰り返している言葉が飽きもせず口からこぼれた。

「もう大丈夫か？　あの死人みたいな男もどこかに行ったみたいだし、少しデッキに出て外の空気を吸おう。いいよな、オオミ」

　すっかり立場が逆転だ。オゼの中でもオオミが俺の保護者のようになっている。

「いいですね、今上がって来た階段から甲板に出られます。ここに来る途中、廊下の船内図で確認しました」

「お前冷静だな。俺はさっきそんな気持ちの余裕、なかったよ」

　オゼが感心した表情で、少し口元に笑みさえ浮かべてオオミを見た。この二人と来て良かった。安心して思わず後ろの整えられたベッドに腰を落としてしまった。

　二人が同じ優しい顔で俺を見ている。

「さ、あの男が戻らないうちに行きましょう」

　オオミが俺に手を伸ばした。俺の知っているのより一回り大きく感じたその手はとても温かかった。