黒い天の川2

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黒い天の川2

 翌朝、オオミに会った時は驚いた。元々、顔を見ただけ引きこもりがちとわかる風貌だけれど、そういう問題ではなかった。 目の充血は怖いくらいだし、反対にその周りの薄い皮膚は青黒くなっている。何があったんだろう。 「おはよう、鳥、見たか?」  明るい話題を振ってみた。 「おはようございます。はい、何だか怖かったですね」  死人のような声が返ってきた。怖かった……? どういう意味だ。  こいつ鳥恐怖症か? 昔鳥を飼っていたとか話していた記憶があるけど、気のせいだったか。  その日の午後「コーヒーを買ってきます」と言ってふらふら出て行ったオオミが戻ってきた時は、思わず「お前、帰れよ」と強い口調で言ってしまった。  それほど顔色がやばかった。 「大丈夫ですよ」  じとっとした目で言い返された。こいつはこうやって強情なところがある。 「そうか……」  そう言ってわざわざ俺の分も買ってきてくれたコーヒーを受け取って、浮かせた腰を下ろしたが、心の中で「目が据わって怖えよ」と思っていた。  オオミも謎に椅子にぶつかりながら、隣のデスクに落ち着いた。 「ほら、コーヒー代。あ、そうだ具合悪いところ悪いんだけどーー」 「はい、なんですか」  やっぱり顔が怖い。このタイミングで、言おうかどうか迷った。 「船に乗れることになったよ。俺とお前とオゼの三人で」 「本当ですか」  怖い顔がぱあっと明るくなる。――なんだ、言って良かった。 「そうなんだ。今、お前が外に出てる間にメッセージが届いてな」  ここ最近の俺たちは、年末年始の休暇が取れるかどうかも怪しいほど忙しかった。みんなより遅れてやっと休みが取れるとわかった時には、空にも陸にも帰省の手段がなくなっていた。 同じ部署で同郷のオオミとオゼもチケットを取り損ねたと知り、「船舶会社に勤める叔父にどうにかならないか聞いてみてやる」と約束してから数日が経っていた。 こいつも諦めかけていたに違いない。 「向こうに着くまで丸一日近くかかるぞ。それに――あんまりリラックスできないと思う。作業船の空いてるキャビンを借りることになるから――」 「それでも帰れるだけで嬉しいです」  オオミの顔に生気が戻ったので良しとしよう。  ところでオゼは今日出社してるんだろうか。全然見かけていない。珍しいことではないが。 「ちょっと聞いていいですか」  黙って聞いていたオオミが意を決した顔で言った。 「なに?」 「鳥に癒されたみたいなこと言ってましたが、正気ですか」  何だ、そんなことか。 「正気だよ。お前こそ何でそんなに怯えてるんだ」  窓から漏れ始めた朝陽に目を細めて、オオミが確認するように、質問で返してきた。 「目玉を咥えているのを見ても、平気なんですか」 「ああ……」  肯定とも否定とも取れる曖昧な声で答えるのが精一杯だった。俺はやっぱり狂っているんだろうか。  ――さっき鳥に連れ去らわれる目玉を見た時、その持ち主を羨ましいと思ってしまったんだ。
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