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警告
「ガクさんは、顔に出ちゃうから駄目だと思う。禿は、変な勘だけは良いんだから。」
今泉と冬は、子供達と夕食を食べていた。
「でも一応忠告しておいた方が良いよ。」
今泉は、遊び始めた華を椅子からおろし、顔と手を拭いた。
「流石に禿も、何度も同じことはしないでしょう?だから大丈夫よ。」
…いや待て…忘れてたが、あいつは禿の上に馬鹿だ、しかも関係は全くないが、早漏ときてる。
冬は、夏にご飯のおかわりを渡した。
「あの店は、外科医局長が、良く使ってるお店だよ。その他にも何ヶ所かあるけど。」
…チャラいのは健在…っと。
顔も広そうだもんね。
「あとは、探偵が何とかしてくれると思うの。禿の事だから、女性関係では、沢山の失敗があると思うわ。」
「うん。知ってるよ。あのお店に通って、色々聞いてきたから。あとは、ちょっと変な噂も聞いたんだよねぇ。」
冬は、驚いた顔をした。
「ちょ…っと静さん。行ってきたの?」
夏も飽きて、抱っこ抱っこと、冬にしがみ付いた。
「うん。大丈夫…女の子の扱いだったら、慣れているから…ただし、トウコさん以外ね。」
今泉は、女の子達の名刺、ホストのスカウトマンの名刺などを、ポケットからパラパラと出しながら、笑った。
「まぁ…。」
冬に、ウィンクをして微笑んだ。
「兎に角、ガクさんには秘密裡で動くの。」
冬は、夏の口や手を拭き椅子から下した。
ドアが開く音がして、小鳥遊が病院から帰ってきた。
「時間を掛けてゆっくりと、情報収集しなくっちゃ。」
今泉にも、冬が何を考えているのか分からなかったが、取り合えず、とても楽しそうなことが、起こる予感がした。
「OK、ドロシー。魔女を倒して無事に戻ってこよう♪まだ随分時間が掛かりそうだもんね。」
…魔女というより、性癖に一貫性の無いハゲだがな。
おしゃべりな今泉が殊の外、この状況を楽しんでいることが冬には不安だった。
「パパ」「お父しゃん」
子供達が、玄関へと走り出した。
「敵を欺くにはまず味方から…静さんどんなことが起こっても、私を信じてね。」
冬は今泉の頬に触れてから、子供の後について玄関へと向かった。
「ガクさん。今日は、何か面白いことはありましたか?」
小鳥遊から、鞄を受け取りつつ、キスをして微笑んだ。
🐈⬛♬*.:*¸¸
冬たちがアメリカに帰り、暫くたった頃、小鳥遊は院長に突然呼び出されていた。そこには、外科病棟看護師長が居た。
…嫌な予感。
「おお。小鳥遊医局長。お忙しいところ済みませんな。」
院長はプレジデント・チェアーから立ち上がり、小鳥遊にソファを勧めた。
「いえ。僕はこのままで、結構です。」
…嫌な事なら、さっさと済ませて欲しいものだ。
今日の術後患者2名は、状態が不安定で、血圧のコントロールが心配だった。
…早く病棟に戻って、二人分の仕事を終わらせなければ。
小鳥遊は、観念して少々緊張した面持ちで、ゆっくりと腰掛けた。
「いえいえ…ちょっと時間が掛かりそうなので、座って下さい。」
…嫌な予感的中か。
小鳥遊の頭は、院長に一体どんな話をされるのか、目まぐるしく動いていた。
災害ボランティアの時でさえ、立ち話で済ませてしまうような男だ。改まっての話となると、もしかしたら転勤や、移動の話かも知れない。
「奥様はお元気かね?また留学してるんだって?」
事務員が、外科病棟師長と小鳥遊に御茶を運んで来て、どうぞと言って一礼して去っていった。
「ええ。今は看護大学で、教授をしています。」
「そうですか。日本に戻ってきたら、ぜひ付属の大学で、教鞭を取って貰いたいものですね。それとも、あなたと一緒に、脳外科で働きますかね?」
…そんなことを言うために、わざわざ呼びつけたわけではないだろう。
小鳥遊は、穏やかな微笑みを浮かべながらも、警戒していた。
冬のことを褒められるのは夫としても、職種は違えど同じプロとして、嬉しい。
「そうですね。妻は脳外科が好きですし、それを望んでいますが、どうでしょうかね。帰るのはまだ先になりそうです。」
いつも小鳥遊は、冬がどれだけ頑張って来たのかを、傍でみているので、評価されて当然だと思っていた。
「いやぁびっくりしましたよ。病院に在籍したまま、留学だなんて…医師で、そのシステム作りを、しようと思っていた矢先でしたのでね,それも看護師でしょう?」
小鳥遊は、思わず口元が緩んでしまった。冬が、この言葉を聞いたら、医者と看護師はプロとして対等の立場です!と食って掛かりそうな気がした。
「あの時は、関係者は大騒ぎでした。」
冬の性格を考えると、夫婦で同じ病棟で働くのは、逆に大変であろうことは、今からでも予測出来た。患者や看護師の為だったら、医者や看護部長、院長にだって噛みつく事は確実だ。
「気恥ずかしい限りです。」
外科病棟師長が、じりじりした様子で、ふたりの会話を聞いてた。小鳥遊は、院長に冬の病院復帰を、懇願された。
…病院が、放り出しといて、皮肉なものだ。
小鳥遊は、院長のおべっか使いを呆れながらも、表情には出さず、静かに聞いていたが、それにも飽きた頃、看護部長も、お待たせしましたと、入ってきた。
「看護部長さん。待っていましたよ。まぁ座って下さい。」
知らされていなかったのは、自分だけかもしれないと、小鳥遊は、他の3人の顔を見て、この時に思った。
「実は…お話というのは…外科病棟で、頻発していた薬物盗難に、関わることなんです。」
小鳥遊も、その話は噂で聞いていた。外科看護師が、睡眠薬を大量に患者から盗み、よからぬ団体に、横流しをしていたという話だ。
…あれは、確か解決した話じゃ無かったのか?
新聞にも載ったが、同じころに、政治的な大きな事件があり、余り注目はされなかった。
一瞬、今泉のことが思い浮かんだが、ほっとした。院長の、話し難そうな様子に、しびれを切らせた外科看護師長が、口を挟んだ。
「実は…小峠先生とその看護師との関係についてです。」
小鳥遊は、相槌も打たず、黙って聞いていた。
「看護師が、睡眠剤を多量に盗み、それを手助けしていたのが小峠先生のようなのです。」
…ようなのです?
「ご存じのとおり、看護師は、退職になりました。」
小鳥遊はどうも遠まわしで、無駄な情報が、多い会話が苦手だった。
脳外病棟師長は、さっぱりとした性格で、ネチネチとしたところが無いのが、冬によく似ていた。
特に、この外科病棟師長は、小鳥遊が苦手とする部類だった。
「小峠先生が、関わっているという確証は、まだ無いんですね?」
小鳥遊が念を押すと、外科病棟師長は、慌てて付け加えた。
「ええ。今薬剤部にも、確認中です。」
小鳥遊は、大きなため息をついた。
「病院始まって以来の事でね、それも医師が関わっているとなると…その…困るんですね。」
院長が言った。
「この件に関しては、調査中という事で、小峠先生の様子を伺いたかったんです。」
外科病棟は、以前から薬の管理が杜撰だと、言われていたし、院内監査の度に注意を受けていた。外科医局長の、大雑把でワンマンな性格が災いし、師長も苦労していると、聞いていた。
…だから、小峠も付け入る隙があったのか。
「ですので。今このような事が起こっていると、お伝えしておこうと思いましてね。申し訳ないんだが、よろしく頼みます。」
院長は、席を外そうとしたが、外科病棟師長と看護部長は、逃がさなかった。
「小鳥遊先生。この際だからはっきり申し上げておきますけれど、小峠先生には、ほとほと迷惑をしているんです。」
外科看護師長は、体を乗り出しながら言った。
「迷惑?」
…と、すると女性問題だな。
小鳥遊は、辛抱強く話を聞いている姿勢を見せていたが、内心はいらいらしていた。
…女性はややもすると、問題が起こった時でなく、何かのついでのように、あれもこれもと言うのだろうか?
「ええ。何人ものうちの看護師と同時に…男女の関係になったり、それが元で、いざこざが絶えないんですよ。」
…それなら、外科医局長だって同じ、いやそれ以上じゃないか。
看護師どころか、教鞭をとっている、看護大学の学生にも、手を出しているという噂だった。
「脳外師長からは、お聞き及びじゃ無いようですね。」
…確かに、何も聞いていない。
ただそれには、理由があり小鳥遊自身が、プライベートで、色々あったせいで病棟師長は、余計なことで気を揉ませないように…と、考えての事だったのかも知れない。言えないような、雰囲気を作っていたのは、小鳥遊自身だった。
「いいえ。伺っていました。」
…話を合わせておく方が、得策だ。
それに、冬のことで小峠には、何度も注意をした覚えもあった。
「では…小鳥遊先生が、小峠先生を、野放しにされていらっしゃった…と、いう事ですよね?」
外科看護師長は、勢いづいて、しっかりと座りなおした。
「野放しって…あなたそれじゃぁ…盛りのついた、犬や猫みたいじゃ無いですか。」
院長が、あげ足を取って笑った。小鳥遊が笑いたいのをぐっと堪えたのは、笑った院長が、ヒステリックになった、外科病棟師長に叱られたからだ。
「本当に…僕の管理が不十分で、申し訳ありませんでした。」
…犬にも、首輪を付ける時期が来たか。
小鳥遊は、外科病棟師長に、立ち上がり、深々と頭を下げた。
「看護師さんや、師長さんに迷惑をかけ、本当に申し訳ありませんでした。」
再び、師長の前で深く頭を下げ、看護部長にも、ご足労頂いて申し訳ありませんと付け加えた。
こんな時の、看護師長達の扱いは、院長より小鳥遊の方が上手かった。
「小鳥遊先生が悪いのでは無いので、そんなに頭を下げなくても。」
外科看護師長は、慌てて言った。
…あの男を、どうするかだ。
「では、この件…女性問題については、小峠先生には厳しく注意しておきます。」
小鳥遊が立ち上がりかけた時、院長が呼び止めた。看護部長と、外科看護師長が、退出したのを確認して話しだした。
「実はその件に、関連するんだが…小鳥遊先生に、改めて、お願いしたいことがあるんです。」
院長は、既にぬるくなったお茶を、ごくごくと飲んだ。
…やれやれ。
小鳥遊は、頭がズキズキと痛みだした。
「時間を取らせて、本当に申し訳無いが、外科医局長についてですが、あの人も、色々と女性の問題があってね…その色々と難しいんです。」
事務員に、院長は新しいお茶を頼んだ。
「はい…。」
事務員の後姿を眺めながら、ゆっくりと静かに言った。
「…派手で、本部も困り果てているんです。」
「はい。」
「まだ公にはして欲しく無いんですが、僕は、あなたに副院長を、お願いしようと思っています。」
「えっ…。」
「本部とも相談して、君はまだ少し若いが、勤勉で他の職種のスタッフからの信頼も厚い。表立った問題も、今まで起こしたことが無い、真面目な男だと私も信頼している。」
小鳥遊の若さで、副院長とは前代未聞のことだ。
「通例ですと、大学教授などが…副院長になる筈では?」
院長は、渋い顔をしていた。
「近いうちに外科医局長は…辞職に…なるでしょう。」
院長は、じっと小鳥遊の顔を見つめていたが、ここでやっと話が見えてきた。
「その問題の煩雑な後処理に、誰も関わりたく無く、副院長代理役を、誰もしたくないという事ですね?」
「流石に、君は呑み込みが早いね。」
…そんな役は、誰もしたくないだろう。
「しかし、年齢的に言えば藤田麻酔科医局長の方が僕よりも、適任ではありませんか?」
藤田麻酔科医局長なら、物腰も性格も、穏やかで適任だ。ただ、問題処理だけに献げるのは、非常に勿体ない立派な人物だ。
「うん…私もそれを考えたのだがね…。」
「僕は、まだ未熟ですので、お断りいたします…が事後処理であれば、役職付きでなくても、お手伝い致します。もしも、藤田麻酔科医局長が、副院長になったら、僕は、その補佐として、喜んでお手伝いさせて、頂く覚悟です。」
年齢が、若い自分では、医局長の中でも、不満が出る様な気がしたが、藤田麻酔科医局長であれば、温厚で誰もがすんなりと、認めるような気がした。
「そうですか…。」
院長は、腕組みをしていたが、最初よりも表情が穏やかになった。
「藤田麻酔科医局長には、僕が補佐役になりますとお伝え下さい。それでも、藤田先生がお断りになるようでしたら、その時はまた考えさせてください。」
小鳥遊は、今度こそソファから、立ち上がり礼をして去った。
院長に、信頼されていることは判ったが、小鳥遊は複雑な気持ちだった。
病棟へ戻ると、心配そうに脳外科師長が、小鳥遊の事を待っていたが、小鳥遊の疲れた様子を見て取ると、
「先生のお時間のある時で…。」
…と去ろうとしたので、小鳥遊は師長を、慌てて引き留めた。面談室で、小峠の話をした。
それ以外のことは、公になってから話せばよいと、小鳥遊は思った。
「小鳥遊先生。以前から、外科病棟師長に言われていたんです…。」
「ええ…今日知りました。師長さんが、気遣ってくれていたのが良く分かりますし、僕が気が付かず本当に申し訳ありません。」
いえいえ…と、師長は静かに言った。
「本当は、私が何とかしなければいけなかったんです。」
師長は、大きなため息をついた。
「ここじゃあなたも僕も居ますし、出来なかったんでしょうね。それから、ここの病棟の看護師さん達から、何か聞いていませんかね?」
「最近は…でも…数年前までは…。」
師長は、言葉を濁した。
「それって…。」
小鳥遊が聞くと、師長は口を閉ざしてしまった。
「僕の妻…のことですよね?」
師長は、びっくりして目を見開いた。
「月性さんは、先生にも話したんですね?」
「ええ…前に聞きました。」
「可哀そうな事をしたと思うのよね。月性さん。小峠先生に絡まれてた、後輩看護師の為にねぇ。翌日、酷い痣付けてきたから、問いただしたのよ。」
…え。
「小峠先生と一緒に帰ったのは見たから、あなたが言えないなら、何があったのか、看護部長に報告するからって、言ったら、やっと教えてくれたの。」
「どうして師長さんは、すぐに僕に教えてくれなかったんですか?」
「月性さんに止められたのよ。自分が酔ってしまったのが悪いから…って。それからは、私も注意して見ているようにしてたけど、長い間、言い寄られてたんじゃ無いかしらね。でも、その度に大丈夫ですって。」
小鳥遊は大きなため息をついて、疲れた顔を手で擦った。
「それに、小峠先生が、皮膚科の女医さんと痴話げんかで、怪我をしたこと知ってます?その時も月性さんは、小峠先生を庇ったらしいのよ。」
「いつの話ですか?どうして気が付いたんですか?」
「小峠先生と月性さんが、回診車押して、空部屋に入ったのを見ちゃったの。私は、びっくりして追いかけてドアを開けたら、小峠先生の背中の傷の処置をしててね。後々、話を聞いたら、皮膚科の女医さんが、小峠先生を切りつけたって言うじゃない。」
小鳥遊は唇をかんだ。小峠と冬、ふたりの関係を疑った、あの時のことだとすぐに判った。
「月性さんは、何でも自分で解決しようとするじゃない?人が良いというか、責任感が強いと言うかなんというか…だから叱ったのよ。」
「そうだったんですか…。これからは、どんなことでも伝えて頂けないでしょうか?」
冬のことに限らず、まだまだ自分が知らないことが沢山ありそうだと思い、気分が沈んだ。
…皆が、少しづつ情報を持っていた筈なのに、それを共有できていなかったということか。
「わかりました。先生が、そうおっしゃるのでしたらそうします。」
「僕も、師長さんに何かあれば、その都度お伝えします。」
師長は、静かに頷いて、面談室を出た。
🐈⬛♬*.:*¸¸
小鳥遊は、小峠を連れだした。小峠は、緊張した面持ちだった。
「僕が、あなたを呼び出した理由は判りますか?」
…この男は、どこまで判っているのだろうか?
少しの間、小峠は考えている様子だったが、ゆっくりと口を開いた。
「薬物盗難事件のことですか?」
小鳥遊は、何も答えずじっと小峠を見ていた。
「あの看護師とは、確かに…色々ありましたが、僕は関連はありませんよ。」
小峠は、すぐにいつもの落ち着きを取り戻した。
「そうですか…まぁその事にも、少々関連していることなのですが…。」
小峠の顔が、一瞬強張ったのを、小鳥遊は見逃さなかった。
…暫く泳がせておけばいい。
「外科の看護師さん達のことです。今日、呼び出されましてね、風紀を乱すようなことを、これ以上しないで欲しいと言われました。」
小鳥遊は腕を組んでいた。小峠と、山田外科医局長は、女遊びが派手なのは、皆が知っていたが、本人は、一体どう思っているのだろうか。
「・・・。」
「何か、弁解はありますか?」
小峠の眼には、怒りと苛立ちが浮かび、ゆっくりと口を開いた。
「大人の付き合いですし、それを何故、注意されなければならないのか、僕は理解できません。」
「看護師同士の、いざこざが絶えないんだそうです。」
…馬鹿な男だ。遊ぶのなら、もっと上手くやればいいのに。
「以後…気を付けます。」
他の医者に比べて、要領が良い事は、小鳥遊も知っていたし、それが鼻につくこともあったが、手術の腕前は、なかなかのものだった。
「僕は、あなたが外科病棟へ行くことを暫くの間、禁じます。」
小峠は俯いたまま、何かを考えて居るようだった。
「これは警告です。これ以上、僕はあなたを、庇いきれません。遊ぶなとは言ってません。ただ、上手くやらないといけません。」
小峠は唇を噛んで、有無を言わさない小鳥遊の態度に、口を開いた。
「わかりました。小鳥遊先生のように、他を出し抜いて、上手く出来るように努力します。」
小鳥遊はこの言葉に、眉を顰めた。
「あなたは、一体何を言いたいのですか?」
誰のことだか判ったが、言葉に出すのは憚られた。論点が少々ずれたが、それでも今だから、きっちりと話しておこうと、小鳥遊は思った。
「出し抜くとは失礼ですよ。僕は筋を通しましたし、忍耐強く待ちました。あなたは、それが出来ましたか?僕は、少なくとも、酔わせて、いかがわしい場所へ、連れ込むような卑怯なことは、しませんでしたよ。」
小峠の顔に、小鳥遊に対する怒りが、ありありと浮かんだ。
「同意の上でしたよ。少なくとも、あの後僕たちは付き合っていたんです。」
小鳥遊は、大人げないとは思いつつも冬のことは、ここではっきりと、させておきたかった。
「痣が出来るほど首を絞めておいてですか?それでもあの人は、あなたのことを庇ったんですよ?師長が僕に報告すると言ったのに、止めたそうです。それに皮膚科女医の傷害事件も。」
小峠も、これには少し驚いたようだった。
「あなたにとって、あの人が特別だった事は、良く分かります。付き合うと、すぐに関係をばらしてしまうあなたが、何も言わなかったんですから。」
小鳥遊は、大きなため息をついた。確かに大の男が揃いもそろって、自由奔放な冬に、翻弄されていたと思うと滑稽だった。
「それでも僕は、僕から、彼女を奪ったあなたを、絶対に許せません。では、失礼します。」
静かに去ろうとする小峠の背中に、小鳥遊は大きなため息をつきながら言った。
「僕は、それでもあなたの医師としての腕は、高く評価しています。これ以上の行動は、慎んでください。」
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