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「おまえ、いつも同じ人間の姿に擬態してるだろ。マニュアルを無視してること、上に報告させてもらうから」
その日も面談でクレーマーに散々やられ、疲労困憊でようやく職場に戻ってきたとき。
通りがかった事務職鬼に声をかけられた。
「ちゃんとやれよ。そんなんだから、数字上げられないんだよ」
「・・・・・・」
「大変なの、おまえだけじゃないから」
良い家柄に生まれて、普段は地獄の事務室内で、従順な死者を相手に、地獄の王の皆様方の虎の威を借りて、安全な場所にいる事務職鬼たち。
自分たちが始めた、面倒だけで意味がない、メンタルを抉られるだけの無駄な業務を一般鬼たちに押し付けて、批判ばかりして、自分たちは高みの見物を決め込んでいる。
(・・・ふざけんなよ・・・)
真面目で大人しく、部署の一兵士として業務をこなすことしか出来ない担当者は、言い返せるはずもなく。
じっと黙ってやり過ごすことしか出来ない自分がはがゆく、情けなかった。
頑張っても頑張っても、サインの一枚どころか、話もまともに聞いてもらえない日々。
クレーマーに罵られ、怒鳴られ、泣かれ、否定され、疲労困憊で職場に帰ると、何かを考える余裕もなく、たまった事務仕事を黙々とこなす日々。
薄暗い室内で、同僚や先輩鬼が不平不満や悪口を際限なく吐き出し続ける声をBGMに、最早頭が動いているのか自分でも分からないまま、ただ条件反射のみでカタカタとパソコンのキーボードを叩く。
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