煌びやかな世界

1/15
前へ
/23ページ
次へ

煌びやかな世界

『ホス狂らしいよ』  四年生の先輩たちの就職活動の行方で盛り上がる夏。まだ就活のことなど頭にない大学2年生の私。所属している映画製作サークルのグループチャットに送られた、それまでの文脈とは関係のないメッセージは『すみません誤爆しました!』というメッセージの代わりになくなった。  それから数日後、サークル活動に顔を出した時に『ホス狂らしい』人間とは私のことを指しているのだと気付いた。昔から人の機嫌を窺うのに顔色やその場の雰囲気をよく見ていたから、私への視線の異変がすぐに分かった。 『いくら?』  私がスマホの画面を見て、そのメッセージを確認したのをニヤニヤとした醜い顔で眺めている周囲の人間に気付いてその場から逃げ出した。ここにはもう、私の居場所はないようだ。大学近辺は群れるほどに歩く速度が遅くなる大学生たちで溢れている。私は一人、足早にそれらの大学生たちを追い抜き続け、自宅へと帰った。  ホストに狂うようにハマっている人間、『ホス狂』。毎月数百万ものお金をホストにつぎ込み身を滅ぼしていく女性たちのことを主に指している言葉だ。本当に私がホス狂ならば、大学なんてまともに通い続けられる訳もない。私はまだ大学3年生で、若き天才起業家でもなければ馬鹿みたいな金額を稼ぐには、体を売って一日に何人もの男性を相手にしないといけないのだから。そんなことちょっと考えれば分かることなのに。サークルのあの人たちはそれらが事実であることはどうだっていいのだ。暗くて派手な遊びをしなさそうな真面目そうな私が、裏で体を売ってホストに狂っているかもしれない、という話が身内で盛り上がる話題であれば、事実であるかどうかなんて、どうだっていい。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加