煌びやかな世界

4/15
前へ
/23ページ
次へ
 小さなマンションの自室に着いてカバンを玄関に投げ出し、ベッドへと身を投げ出した。ベッドへと沈んだまま、何度目か分からないため息を吐き続けていた。  『すみません誤爆しました!』とメッセージを送っていたのは麗花ちゃんと仲が良い子だった。確か莉子(りこ)ちゃんだ。きっと麗花ちゃんからホストクラブに行った話を聞いて、勝手な憶測でメッセージをあげたのかもしれない。私がホストクラブに行ったのは麗花ちゃんと行ったあれっきりだというのに。  あぁもう大学に行きたくないな……。きっとサークルの人たちだけではなくて、学部の子たちにも話はすぐに回るのだろう。同じ講義を受けただけでほとんど関わりのない子たちに面白半分で絡まれたりするのだろうか。今からもう憂鬱だ。  私の居場所はどこにあるのだろう。気付けばいつも居場所はなくなっていた。人見知りで大人しいからか昔から友達というのを作るのが苦手だった。大抵気付いたらクラスの女の子たちを取りまとめているリーダーの子に嫌われていた。中学の頃だろうか、一度だけ勇気を出して聞いてみたことがある。「どうして私をイジメるの?」って。そうしたら「なんとなく」って返ってきて、絶望したのだ。私には何も成す術がないのだと知ってしまったのだから。  私の居場所はこの月10万円の小さな部屋だけだ。お金を払って手に入れた居場所。実家に帰ることもない。別に物理的に距離が遠いとか、そういう訳ではない。あの家には私の居場所はなかった。  父親は分かりやすい人だった。小さい頃から優秀で医学部に進み、順調に医師になった兄のことだけを溺愛していた。私が期待をされていたのは小学生までで、何とか中学は兄と同じ私立の中高一貫校に進学できたものの、兄との歴然とした成績の差に、母親は焦りだした。兄は前妻の子だったからだ。母親も最初は笑顔で「頑張りなさい」と言っていたのに、次第に笑顔はなくなった。高校に進学した頃には励ましの言葉をかけられることはなくなった。死に物狂いで兄と同じ大学に進学したものの、同じ医学部には進めなかった。 「合格したか?」 「えっと、はい」 「はい、じゃない。どこに合格したんだ」 「あ……文学部」  ずっと俯いたままの私は父親の大きな大きなため息が聞こえたのを確認して父親の書斎から出て行った。今まで色んなバリエーションのため息を父親から聞いてきたから、どう行動すればいいのか分かるようになっていた。今のため息は、もう部屋から出て行け、だ。  母親は父親の希望する医学部へ進学できなかった私を見限っていた。「頑張りなさい」と言われなくなった代わりにかけられた言葉は「いつになったら家から出て行くの?」だった。そうして家を出て、この場所に居る。  父親も医師で母親も看護師として働いていたこともあって家がお金に困っている印象はなかった。十分に仕送りも貰っていて、傍から見れば私の環境は恵まれていることだろう。学歴が全ての家族に囲まれて、友達が出来ないなんて相談できるわけがなかった。「そんなの必要ない。遊ぶ暇があるなら勉強しろ」と聞かなくても答えは父親の声で簡単に脳内再生できた。  一人で居続けて、居場所もない私。これからどうやって生きていけばいいのだろう。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加