鍋の会

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 大学の同志達で結成された『鍋の会』は、文字通り、鍋料理好きが集って一つの鍋を囲む会だ。  あの流行り病以降は人数も減り、残った者はかなりの物好き扱いされているが、鍋への愛と情熱があるからそんなことは気にならない。  今日も、会員の一人が仕切り役となり、鍋パーティーを開催した。  本日のテーマは『闇鍋』。一人一品食材を持ち寄るように言われたが、それ以外は主催にお任せ。どんな鍋になるかは食べてのお楽しみ状態だ。  持ってきた食材を主催に渡し、準備の間別室で待つ。やがて主催の声がかかり、俺達は鍋が用意されている部屋へ向かった。  闇鍋の名の通り、鍋に何が入っているのか判らぬよう、部屋は、闇に包まれていた。  ガスコンロではなく電気で加熱する調理具を使い、主催の用意したごく微かな明かりの中で鍋をつつく。  特殊な状況での食事だが、何を口にしているのかよく判らないことが、かえって味覚を研ぎ澄ます。  これは多分あの野菜だ。こっちはあの食材。食べながら自分が何を口に入れたのかを当てるのもひそかな楽しみになっていたが、一つ、どうしても判らない具材があった。  肉なのは判る。だけどいったい何の肉なのか、その特定ができない。  牛じゃない。豚でも鶏でもない。羊とも違う。何か、普段はあまり食べないジビエ肉か? あるいは意表をついて鯨とか?  だとしても、それらは一度は食べたことがある品だから、しばらく食べていれば判りそうなものだが…。  結局、その肉が何なのかは判らぬまま、本日の鍋の会は終了した。もちろん、食べ終わった後で主催に肉のことを尋ねてみたが、秘密だと言うばかりで、材料のことは教えてもらえなかった。  そういえば話は変わるけれど、今日、初めて見る奴が会に参加していたな。でも、鍋を食べ終わった後の集まりには、そいつの姿はなかった気がする。  本人は参加の意思はないけれど、主催に頼まれるなりして準備だけ手伝いに来てくれた人、とかかな。  俺達は平気だけれど、みんなで一つの鍋をつつくことに抵抗を感じる人は少ないないから、多分そのタイプの人が、今日の主催の手伝いだけして帰ったのだろう。  このご時世じゃ、抵抗感があるのは仕方ないけれど、今日の肉とかかなり美味かったから、あれを食べずに帰るなんてもったいない話だよな。 鍋の会…完
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