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 レディースの服とメイク道具は自由奔放に散らばり、罅割れてしまった鏡が眠ったように床に横たわっている六畳ほどの部屋。  朝の九時に輝く陽光が差し込む窓際のベッド上から、私は未だに動けないでいる。ガラス越しに覗く澄み切った空の青が、今のほんの少しだけ憎い。  理由はないけれど。  立派に怒りと呼べる感情ではないが、綺麗に悲しみとも呼べない感情に蝕まれている。  そうすると私は、たった一つの結論にまとめて、いっそ忘れてやろうとする。  全てはあいつのせいだ、と。  学生時代からコツコツとアルバイトで稼いだ貯金額が桁を一つほど減っていたこと。煙草を吸わない私の部屋からそれ特有の匂いが香るようになったこと。ベッドの隣にある棚の上から三番目の引き出しにはコンドームと消臭スプレーを常備するようになったこと。クローゼットにはいつしかデート用の服が目立つようになったこと。時にはメンズのアウターが紛れ込んでいること。メッセージアプリの通知音だけで心が軽く弾むようになったこと。友人や公式だと肩を落としてしまうようになったこと。ベッドの窪みと温もりに寂しくなってしまうこと。部屋と街の様々にあいつの影を見てしまうようになって、密かに涙するようになってしまったこと。あいつから貰った優しさが他の誰かにはないこと。    私は弱い。  あいつをまだ、忘れられないでいる。
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