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ナオミは闇の中に引きずり込まれながら、必死に抵抗しようとした。しかし、全身が麻痺したように動かない。 彼女の目の前には、再びあの影が現れ、その姿が徐々に形を成していく。 今までただの黒い影だったものが、ゆっくりと異形の姿へと変貌していく。 骨が露わになった手がナオミの肩に触れ、冷たい感触が彼女の肌に伝わった。 その手は異常に長く、指先には鋭い爪が生えていた。まるで人間の形を模倣しているかのようだが、明らかに何か異質な存在だった。 ナオミは恐怖で声も出せない。ただその恐ろしい姿を見つめることしかできなかった。影の顔が徐々に形を取ると、目がないはずの場所に無数の赤い瞳が浮かび上がり、その瞳が一斉にナオミを睨みつけた。 口の部分が裂けるように開き、鋭い牙がむき出しになっている。 「お前は…逃げられない…」 影はその不気味な声で囁きながら、ナオミの顔に迫ってきた。 息ができないほどの悪臭が彼女の鼻を突き、ナオミは思わず顔を背けたが、その動きすら影にとっては無意味だった。 突然、影はナオミの耳元で何かを呟き始めた。意味不明な言葉がナオミの意識に直接語りかけてくるように響き、彼女の精神を蝕んでいく。 その声はどこか遠くから響いているようでありながら、同時に頭の中で鳴り響くような感覚だった。 「お前の魂は…この闇の中で永遠に彷徨い続ける…」 その言葉と共に、ナオミは自分の体が次第に消えていくのを感じた。影の手が彼女の体を貫き、内側から何かを引きずり出すような感覚が襲った。 痛みと恐怖が混ざり合い、彼女は叫び声を上げようとしたが、その声は虚しく消えていった。 影はナオミの魂を掴み、そのまま無限の闇の中へと引きずり込んでいく。ナオミの体は崩れ落ち、彼女の意識だけが暗闇の中に取り残される感覚に包まれた。 「お前はもうここから出ることはできない…永遠に…」 その言葉が最後に響いた瞬間、ナオミの意識は完全に闇に飲み込まれた。彼女は自分がどこにいるのか、何が起こっているのかすらわからなくなり、ただ無限に続く恐怖の中で意識をさまようことしかできなくなった。
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