31人が本棚に入れています
本棚に追加
有無を言わさない彼の強引さに車を出したが、どこへ向かえばいいのかわからない。助手席に視線を送るが早瀬くんは黙り込んだまま口を開かず、私は当てもなく車を走らせた。
「彩子さん……いつまでも不幸でいるのは違うんじゃない?」
「え……なに?」
突然、早瀬くんが話を切り出した。
「詳しい事情は知らないけど、彩子さんが都合よく彼氏に振り回されてたってことは見てればわかるよ。家庭のある人なんでしょ?」
薄々とは気づかれているとは思っていたけど、やはりわかっていたんだ。
「……バレてたんだ」
「そりゃあね……」
「で、どこへ行けばいい?」
「その彼のところ。会ってちゃんと話をしてきなよ」
早瀬くんは何の抵抗もなく口に出したが、本気で言っていることは真剣な顔つきを見ればわかる。
「いいわよ! 話すけど……別の日にちゃんと時間を作ってもらうから」
「気を使いすぎだよ。どうして、自分から相手に振り回されようとするんだよ。さみしい時にさみしい。会いたいときに会いたいすら、彩子さん言えなかったじゃないか」
「だって、彼は特別な人だから……」
誠一郎さんが素敵で大好きで、彼の負担になりたくなかった。
困らせたくなかったから、愛して欲しかったから、私は言葉を飲み込み続けた。
「素敵だろうが関係ないよ。いびつだよ、そんな関係。彩子さん、どうせ顔を見たら言いたいこと言えなくなるんじゃない?」
「それは……」
最初のコメントを投稿しよう!