61人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、お前にプロポーズしたくせに、貯金0はないだろ。それより……お前が泣いたのって……」
虎鉄は体を起こすと手を伸ばし私の頬に残った涙を拭う。
「なあ……答えて」
虎鉄は切なげに私を見つめた。
言葉がおかしくても、説明になってなくても、きっと虎鉄なら絶対しっかり聞いてくれる。
感じるままに言葉にしよう。
「……嫌なの。私の知らない虎鉄をあの人が知ってるのが。虎鉄が私以外に触るのも嫌……」
「彩子……それって」
好きとか恋愛とか自分でもよくわからない。でもこれだけははっきりわかる。
「私、虎鉄とずっと一緒にいたい──」
身体がふわりと宙に浮き、視界が高くなる。
虎鉄は私を横抱きに抱えると、勢いよく表へ飛び出した。
「ちょっと! 何? 何? 高い! 怖い! 降ろして!」
すごい勢いで外へ出た虎鉄はそのまま私の家ドアを開け階段を駆け上がり、私を抱いたまま両親の寝室に飛び込み暗闇に向かって叫んだ。
「おじさん! おばさん! まろん!! 俺と彩子さんと結婚させてください!!」
虎鉄の常軌を逸した行動に開いた口が塞がらない。
「……うぅ、なに?」
父も母も、まろんも 突然の襲撃に目を覚まし、ライトを付けて眠い目をこすった。
「虎鉄ちゃん……キミ、何時だと思ってるんだ?」
「そうよ……おかしな夢でも見たの?」
「お父さん……どうしたの? 何で彩ちゃんを抱っこしてるの?」
穴があったら入りたい。
その後が大変だった。
虎鉄は奇襲を謝ることから始まり、私に告白したこと、言ったつもりはないが私がプロポーズを受けたことを説明し、もう一度みんなに結婚を許して欲しいと頼み込んだ。
虎鉄の気持ちはずっと前から父も母もわかっていたらしく、あきれながらも『ようやく……』と喜んでくれた。
まろんはあまり意味がわからないようだったので、私から『まろんのお母さんになりたいの』と付け加えた。
目を輝かせて大喜びでベッドを飛び跳ねる子ども。
その横で大男が嗚咽し泣いている。
初老の夫婦も笑いながら泣いている。
真夜中のカオスな結婚報告。
これから先どんな未来が待ってるのだろう。
想像すると思わず頬が緩んでしまう。
「あー彩ちゃん嬉しそう!」
まろんが私の顔を見て声を上げる。
父と母は微笑む。
目尻を下げた目と鼻の赤い虎鉄が愛おしげに私に眼差しを向ける。
みんながいることが心から嬉しい。
明日が楽しみで仕方がない。
「うん!幸せで胸がいっぱいなの!」
最初のコメントを投稿しよう!