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重い沈黙の中、部屋に時計の音だけが鳴り響く。
ゴツくてガタイのいい虎鉄が、気まずそうに身体をすくませ小さくなっている。
今までの私なら、泣いたり、怒ったりしてここを飛び出していたと思う。
でも、そんな選択は浮かばなかった。
言いたいことを虎鉄にぶつけてやる。勢いを付けて私が話し出すより先に、虎鉄が口を開いた。
「すまん!!!」
虎鉄は手をつき額が床に付くくらい頭を下げた。
謝るってことは、やましいことを認めた証だ。
言い訳を聞いてやろうと思っていた私は衝撃を受けた。
話そうとしていた勢いは消え、悲しさだけが込み上がる。
「私は虎鉄の何でもないけどさ……そりゃあ、あの人はすごい胸してるけどさ……こんなのってあんまりだよ! 虎鉄のバカ! バカ! バカ!」
虎鉄が下げた背中に何度も拳を振り下ろし悔しさをぶつける。
「イテっ、すまん……でも、アイツの胸とは関係ないと思うんだけど……え? お前泣いてんの?」
顔を上げた虎鉄は涙でぐちゃぐちゃの私の顔を見て言葉を詰まらせた。
「悪い? ……だってアンタ、あの人とエッチなことしようと……」
「はー?! 違うって! 俺が謝ったのはアイツに貯金全部渡したことだって!」
「ちょ……貯金?」
「そう! もう家には近づかないって約束させて念書を書かせたんだ!……その後、訳わかんねえこと言ってたけど俺、断ったし」
まろんがあの人に会えば間違いなく傷つく。もっといいやり方があったとしても、虎鉄のやっていることはまろんのためになる。
「それをどうして私に謝るのよ……」
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