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犬も歩けば棒に当たるっていうことわざには、
幸運に遇うことと、災難に遇うっていうことの、ふたつの意味があるらしい。
前者の意味で使うなら、棚からぼたもちで良くね?って思うのは俺だけか?
「うーわっ、夜になってんじゃん」
授業サボって小屋で寝ていたら、いつの間にか周囲は真っ暗。
いや〜、完全に寝すぎたわ・・・。
俺が今居る小屋は、学園の敷地内にある人工林の中にポツンと建てられている。
校舎から離れているおかげで静かに過ごせる反面、起こしてくれる音が無いのが難点だ。
「寝違えた・・・・・・」
立ち上がると分かる、体のバキバキ具合。
首と肩を軽く回して、人工林を出る。
「今の俺って実質イエティじゃね」
山脈に現れるっていう伝説の生物。
警備員に見つかったら、猟友会とか呼ばれそうで怖くなってきた。
身体についた葉っぱを払って、理事長室へ向かう。
「こんちゃー」
「うわッ・・・!」
勢い良く理事長室を開けると、椅子から崩れ落ちる我らが理事長・・・・・・。
生徒達から『きゃー! カッコ良い!』なんてチヤホヤされているらしい海斗兄さんも、
俺からしたらただの変な人なんだよなぁ・・・。
「ちょっ! 深夜の学校ってだけで怖いんだから、不意打ちはやめてくれ!」
「まだ校舎恐怖症治ってなかったのか。俺なんて人工林でイエティになってたのに」
「どういう経緯で・・・?」
「寝てたら夜になってた」
頭にハテナを浮かべる海斗兄さんを尻目に、手頃なソファーに座って、背もたれに腕を乗せる。
「俺に話しがあるんでしょ?」
「あ、うん。実は困ったことがあってね・・・」
海斗兄さんが長々と経緯を話し始める。
俺が今居るこの場所は月嶋学園と言って、名家の子息達が集う全寮制男子校だ。
海斗兄さん曰く、BL好きなら誰もが知ってる王道学園という名の楽園!らしい。
で、その王道学園では生徒会や人気者達が転校生を巡って争いが起こるんだとか。
その転校生が、海斗兄さんの親戚の子、しかも退学になったばかりの超問題児らしい。
「明日から急遽転入してくることになってさ・・・。テンプレ通りに学園が荒れると考えると、もう胃と頭が痛くて死にそうだよ・・・・・・」
「そんなに嫌なら断れば良かったのに」
「親戚の圧が凄かった・・・・・・」
メンヘラモードに入った海斗兄さんを慰める。
海斗兄さんの両親と俺の両親は仲がよく、昔から実の兄弟のように過ごしていた。
数年前から急に姿を見せなくなって、1年前にいきなり連絡が来たかと思えば――
『俺学園の理事長になったんだよ。確か皐月は今年から高校生だよね? うちの学園に来ない?』
疲弊しきった声音で言うものだから、両親も俺も心配でこの学園に入学することにした。
「あの子、性格が完全にアンチ王道転校生なんだ・・・。声でかいし、人の話聞かないし・・・・・・」
「入学前に見せてもらったあのBL小説の奴?」
「それ。ただでさえ事件の後処理とか経営で忙しいのにさ、王道転校生とか手に負えないよ・・・」
項垂れる海斗兄さんの背中を撫でながら、前に読んだ小説の内容を思い出す。
確か、俺様会長とか瓜二つの双子とかが出てくる話だったはずだ。
転校生は、すぐ人を友達認定する超陽キャ。
「皐月って一応、風紀副委員長じゃん?」
「あー、そうだったかも? 一年の頃はほとんど登校してなかったし、除名されてるかもだけど」
「まだ二年生になってひと月じゃん?」
「うん、登校してないけど」
「じゃあさ。お兄ちゃんのために転校生をどうにかしなきゃじゃん?」
「いや、なんで?」
純粋に疑問を口にすると、海斗兄さんは大泣きしながら俺の足にしがみついてきた。
「今まで、授業のサボり見逃してあげたじゃん!」
「学年一位には元々授業免除の特権があるよ」
「なんで勉強してないのに頭良いの・・・? 俺はずっと不思議で仕方ないよ・・・・・・」
オワタ。俺鬱病になるよ。良いの?
ブツブツとつぶやくヤバめな海斗兄さんの様子に、俺は両手で丸の形を作った。
「分かった。どうにかしてみる」
「えぇっ! マジ!?」
「実際、海斗兄さんがこの学園に誘ってくれたおかげで、一年間楽できたしね。恩返ししないと」
「うっしゃー! 俺は心優しい弟を持って幸せ者だよ! 大好き!」
「うぇーい。俺も海斗兄さん好きだよ」
俺たちは作戦会議をするために、スナック菓子とお茶を机の上に広げた。
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