王道転校生が来る

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2  作戦会議はあっさり終了した。  俺がすべきことは、転校生くんとお近づきになって、忠告を聞いてもらえるくらい親しくなること。 「皐月みたいなイケメンは、大抵巻き込まれる運命にある。だったら、こっちから行くしかない」  海斗兄さんがふんっと鼻を鳴らし、得意げに胸を張っている。 「俺は転入生が問題を起こさないように、仲良くなって見張っていれば良いんだよね?」 「理想はそうだけども・・・アンチ王道転校生は本当に話が通じない宇宙人なんだよ・・・」 「へえ・・・どんな感じなのか再現出来る?」 「よし、任せろ」  何処から取り出したのか、海斗兄さんが瓶底メガネとアフロのカツラを被る。  教室で初対面、という設定で行くらしい。  んんっと咳払いをして、俺の前までやってくる。 「はじめまして。俺は五十嵐 皐月。君は?」 「俺は月嶋 海斗って言うんだぞ! 皐月って呼んでも良いよな!」 「うん、好きに呼んで」 「皐月も俺のこと海斗って呼べよな! 俺たち友達だからな!」 「分かった」  握手を交わして、海斗兄さんが隣に座る。  ここが教室だとしたら、俺は授業免除で教室を出ていくところだよな。  席を立った瞬間、海斗兄さんに腕を掴まれる。 「おい、何処に行くんだ!? 授業は受けないとダメなんだぞ!」 「いや、俺は授業免除があるから・・・・・・」 「嘘をつくなんて悪いやつだな! 授業免除なんて聞いた事無いんだぞ!」 「この学園では、成績が優秀な人は授業免除の特権を得られるんだよ」 「言い訳するなよ! 嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ! もう皐月なんか友達じゃない!」 「うわあ・・・ジ・エンドじゃん」  授業免除で教室を出たらゲームオーバー。  海斗兄さんが変装を外して、遠い目で言う。 「こんな感じになるはずだよ。あの子は自分の非を認めないし、一度決別したら仲直りもできない」 「つまり、俺は転校生くんを全肯定するBOTになれば良いって訳か」 「それはそれで学園が大変なことになるからやめて欲しい・・・。こう、程よく好感度管理を・・・・・・」 「うーん・・・まあどうにかなるっしょ」  頭を抱える海斗兄さんに、今日はもう休もうと声を掛け、仮眠室へ向かう。  海斗兄さんのおかげで、転校生くんがどんな感じなのかは分かった。  明日は、臨機応変に行ってみよう。  という訳で、朝シャンを終えた俺は、髪も乾かさずに正門の近くまで来た。  王道の展開だと、転校生くんが門を乗り越え、その下に副会長が居て、笑顔を見破るらしい。  そして、キスをすると。 「どういう展開・・・?」  まあ、小説の内容が必ずしも現実に起きる、とは限らないだろう。  門の前で、腕時計を見ては苛立った様子で足を揺する、おそらく副会長さんを見つめる。 「そこのお前ッ!! 危ないぞッ!!」 「なっ――ッ!?」  副会長さんの足元に変な影が出来たと思ったら、その上から人が降ってきた。  ゴツンッ、大きな音が響き渡る。  地面に倒れる副会長さん。その上には、昨日海斗兄さんがしていた姿と全く同じ格好の人が居た。 「いッ・・・! 一体何が・・・・・・」 「おい! 危ないって言ったのになんで避けないんだよ! 鈍臭い奴だな!」  頭を抑えながら上半身を起こした副会長さんに、転校生くんが怒号を浴びせる。 「・・・・・・なんだこいつ、不審者か?」 「お前失礼な奴だな!」  俺は副会長さんに同意かな。  見た目もそうだけど、正門を越えて侵入してきた不審者なのは事実だし・・・。 「あなたはこの学園の生徒ではありませんよね?」 「何言ってるんだ! 俺はここの生徒なんだぞ!」 「あー、なら、あなたが転校生ですか」 「そうだぞ! 門が開いてなかったからわざわざ登る羽目になったんだ!」 「いや、門は普通に開いてますけど・・・・・・」 「開いてなかったぞ!」 「はぁ・・・・・・」  副会長さんが呆れたようにため息をつき、転校生くんを退かして門を引く。 「横に引いても開かなかったのに、どうしてお前には開けられるんだよ!! ズルいぞ!!」 「この門はスライド式ではありませんからね。横に引いたところで開くわけないじゃないですか」  ――馬鹿な人ですね。  ここからでは声は聞こえなかったが、口角を上げながらそう口を動かしたのが見えた。 「俺は馬鹿じゃない! 謝れよ!」  顔を真っ赤に染めた転校生くんが、握った拳を副会長さんの顔目掛けて突き出す。  副会長さんは身体を横に動かし拳を避けたが―― 「「んんッ・・・!!」」  バランスを崩した転校生くんが、副会長の身体に向かって倒れた。  転校生くんを副会長さんが受け止めたが、上を見ると顔と顔がベッタリ・・・。 「あ、本当にキスした」  俺は海斗兄さんに頼まれていた通り、スマホのシャッターを切った。
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