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「すごい黒歴史見ちゃったな」
あの後、副会長さんは顔を真っ赤にして転校生くんを怒鳴りつけ、責任を取れと怒り狂っていた。
スマホを取り出して、LIMEを起動する。
皐月:笑顔じゃなくて、責任を取って欲しいってさ。
海斗:いや、意味わからなくて草 とりあえず、王道イベントは起きたんだよね?
皐月:うん。写真もバッチリ撮った。
さっき撮った写真を選択して、送信する。
海斗:さすが皐月!! 最高の癒しをありがとう!! リアルで見れるなんて幸せだよ!!
皐月:あ、そう。俺教室行くからまた後で。
海斗:はいよー、無理しないでね。
俺はスマホをしまって、教室へ移動した。
俺のクラス――2-Sは、特別優秀な生徒のみが集まるエリートクラスだ。
親戚からの圧力に負けて、そのエリートクラスに転校生くんも編入されることになったと・・・。
「海斗兄さんの親戚すごいな」
転校生くんは頭があまり良くないみたいで、試験を受けずに裏口入学したらしい。
教室の扉を掴んで、横にスライドする。
「おはようございます。今日も良い天気ですね。誰かタオル持ってませんか?」
「「・・・・・・・・・・・」」
静まり返ったクラスメイト達に挨拶をして、教室を物色する。
海斗兄さんが『学校の備品は全部皐月の物だから自由に使って良いよ』と言っていた。
転校生くんが来る前に、髪の毛を乾かしたい。
「バスタオルとか、あると助かるんだけど」
「「きゃあああああああああああ!!」」
俺が棚を開けた瞬間に、悲鳴が上がった。
「なにごと・・・?」
もしかして、棚からゴキブリ出てきた?
周りを見渡してみるが、ホコリひとつない綺麗な床が広がっているだけだった。
「このイケメンだれ!? 初めて見たんだけど!」
「転校生じゃないか!? ホス先が今日来るって言ってただろ!?」
「シッ・・・! お前たち声がデカいぞ。この方は、例の森の王子様だよ・・・!」
「「あの王子様!?」」
こっちを見ながら、ヒソヒソと話す人達。
俺が森の王子様・・・?
イエティの間違いだろ・・・・・・。
「タオル必要なんですよね。僕の使ってください」
「ありがとう」
親切な人がタオルを貸してくれた。
多分、部活で使う用の汗ふきタオルだ。
洗って返すと言ったのに、そのままの方が嬉しいと言われ濡れたまま返す。
「俺は五十嵐 皐月。授業免除で欠席していることが多いから、はじめましてだと思う」
「皐月様・・・僕、親衛隊作っても良いですか?」
「ああ、別に良いよ」
「ありがとうございます!!」
この学園には、親衛隊という制度がある。
海斗兄さんが事前に教えてくれた情報によると、好きな人を守る会的な集団らしい。
近づく人に嫌がらせをする悪い集団もあれば、守るだけで過干渉はしない良い集団もあるとか。
「制裁とかは無しにしてね。これからよろしく」
「はい!!」
創立者くんと握手を交わして、自分の席に――って、俺の席は何処だ?
「創立者くん。俺の席分かる?」
「は、はい! 創立者くんが思うに、新学期からずっと空いているあの席が皐月様の席だと思います」
創立者くんが指した場所は、窓側の一番後ろの席だった。よく見ると花瓶が置いてある。
「机に菊の花。人生で初めて見たわ」
「わああああああ!! さ、皐月様の机に、一体誰がこんな嫌がらせを・・・!」
「いや、ただ物置になってるだけだと思うよ」
どうせ授業は受けないし、花瓶が置いてあった方が映える。今流行りのイソスタ映えだ。
怒れる創立者くんを席に戻して、俺も席に着く。
「転校生連れてきたぞ〜」
ちょうどその時、教室の扉が開いた。
キラキラの金髪頭に、白衣を身にまとったホストのような人が入ってくる。
「センセー! 王子様のせいでかなりハードル上がってるんですけど、ぶっちゃけ転校生どうすか?」
「あ〜、可愛いやつだよ。清潔感はともかく。素直で裏表も無いしな。清潔感はともかく」
「とにかく汚い奴なんすね。りょうかいっす〜」
軽い会話が繰り広げられ、転校生が入ってくる。
転校生くんを見たクラスメイト達は、一瞬にして静まり返った。
「俺は橘 瑠夏って言うんだ! 気軽に瑠夏って呼べよな!!」
「「よく名前負けしてるって言われない・・・?」」
凄いシンクロ。
クラスメイトの八割くらいが、同じタイミングでまったく同じ言葉を口にした。
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